もう一つ、「若年層」への期待も大きい。若年層の取り込みが遅れている理由もいくつか存在する。まず、事業用のバスを運転するのに必要な「大型二種」運転免許取得の条件として、普通免許などを取得後3年以上経過している必要があり、最速でも21歳にならないとバス乗務員になれないことだ。
高校新卒者を乗務員として採用することができないため、ほとんどのバス事業者は既に同免許を取得した「即戦力」のみ採用の対象としてきた。
もっとも、新卒者を採用し社内で育成することは多くの業界で一般的だ。例えば鉄道の運転免許の取得資格は20歳以上で、大型二種と大差ない。しかし鉄道の運転士は、駅員や車掌など社内で経験を積んでから免許を取得し運転士としてデビューする例が多い。
バス乗務員との差がどうして生まれるのかと言えば、鉄道運転士は業界内での転職がほとんどないのに対し、バスの場合は免許を手に業界内で転職することが多く、せっかく社内で一人前の乗務員に育成しても、他社に流出するリスクがあるからだ。
また、路線バス事業者は公益性が大きく経営が安定していた上、2000年ごろまで、私鉄系など大手バス事業者の待遇は極めて恵まれていた。そのため、タクシーやトラックなどで無事故無違反といった優秀な者が「バスの門をたたく」という雰囲気が定着していた。「即戦力」を簡単に採用できたことから、社内で乗務員を育成する動きが少なかったのである。
一方、路線バスの輸送人員はピーク(昭和40年代)に比べ約4割の規模に縮小しており、それに応じ長期的には乗務員数も減っていることから、新規採用が抑制されバス乗務員の平均年齢は48.5歳と、全産業男子平均を約6歳上回っている。
路線バスの輸送人員が減っているということは、さらに、子どもの頃からバス乗務員という職業と日常的に接する人の比率が下がっているということでもあり、ますます「選択肢」として想起されなくなっている点も大きな問題だ。
(高速バスマーケティング研究所代表)