去る3月13日、アルカディア市ヶ谷で「淑徳大学経営学部創設10周年記念シンポジウム」を開催した。この春、経営学部の客員教授に新たにご就任される4名の先生がたのお披露目と経営学部・東京キャンパス移転の祝賀を兼ねての催しで、400名ほどの聴講者で会場は埋め尽くされた。
その4名とは、本紙でもおなじみの観光業界の先導者たち、公益社団法人日本観光振興協会の久保田穣理事長、一般社団法人東北観光推進機構の紺野純一理事長、一般財団法人沖縄観光コンベンションビューローの下地芳郎会長、さらに東武トップツアーズ株式会社代表取締役会長・執行役員で元・観光庁長官の久保成人氏である。筆者がジャーナリスト時代からお世話になってきた恩人でもある。
「ポストコロナ元年」と言われて幕開けた2023年。日本経済再興の原動力となるツーリズムに焦点を当て、テーマに「日本の観光の未来を語る~ポストコロナの観光経営とは~」を掲げた。奇しくもこの日はマスク着用が個人の判断に委ねられた初日にあたる。
第1部の講演会では、久保田氏が冒頭、観光の意義や観光産業の役割を語り、観光が日本経済に与える影響について共有した。
次いで、紺野氏と下地氏から東北、沖縄のそれぞれの地域の特性や観光振興策について分かりやすく解説いただいた。聴衆の半数は学生。平和学習や防災教育を目的に、修学旅行で訪ねたものも多くいた。さらに、産業界を代表して東武トップツアーズの久保氏が、これからの観光DX人材の重要性や25年日本国際博覧会(大阪・関西万博)に照準を合わせた企業活動について語ってくれた。同社は、コロナ禍にあってもソリューション事業で成果を挙げ経営は盤石。4月1日に入社予定の4年生たちも駆け付けて、会長講話を緊張した面持ちで聞き入った。
旅は楽しいもの。それを沈痛な表情で語ることは許されない。コロナで大きな打撃を受けた業界だが、今、めざましいほどの回復を遂げている。第2部はシンポジウム形式で自身がファシリテーターを務め、和気あいあいに進行した。堅苦しい討議の場にはしたくない。日本の観光の未来が明るいものであることを正しく伝導するのが登壇者の共通の使命であり、筆者も想いは一緒である。実際に、登壇者も聴衆も笑みがこぼれ、会場は明るいムードに包まれた。
マイクを握る自分自身も楽しく感じられたのは、それぞれに学生時代の旅のエピソードを語っていただいたときのこと。鉄道を乗り継いでの貧乏旅のエピソードや地方から上京して方言が通じず困惑したことなど、今では地位ある人たちが若い頃、どのような思いで旅をしたかが興味深かった。
「かわいい子には旅をさせよ」と言うが、それもかなわぬ3年余月であった。産官学が一緒になって、若年層を積極的に旅に出す。そうした社会を築き上げることも、ポストコロナで突き付けられた私たちの命題といえよう。
ゴールデンウイーク明けには、コロナも2類から5類へと移行して、いよいよ失ったものを取り返しにいく時機がきた。1年に及んだ本連載も、今号から「考察・ポストコロナの観光」という副題をマスクとともに外すことにした。新たなステージの初回号である。
(淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)