インアウトバウンド仙台・松島が主催した大船渡市・住田町連携「外国人観光客受け入れ体制整備事業」の講演会に登壇した。三陸沿岸部や隣接市町村では、東日本大震災とコロナ禍を経て、インバウンド誘致で新たな絵図を描こうとする動きが加速している。
キーワードは仙台空港である。復興道路「三陸道」の全線開通で、被災地と杜の都・仙台が劇的に近くなった。仙台は東北随一の魅力ある都市で、東北ゲートウェイ。ホテルはもちろん、免税ショッピングもレンタカーもそろう。仙台発着の三陸誘客で、これまでとは違う景色がみえてきそうな予感だ。
その三陸道を利用して、会場の大船渡「おおふなぽーと」と仙台を往復したが、改善点も多いことが分かった。片側一車線で、事故があれば一斉に下道に降ろされる。その日は3回も高速を降りた。
三陸道はパーキングエリアが少ないため、トイレ休憩でも出口へ向かうことがある。出口付近には「道の駅」が整備されるなど、ドライバーの休憩処にもなっている。だが、誰にも起こる生理現象に、まさかの渋滞なら、話は別だ。
講演の翌々日、盛岡で出席した「令和4年度いわて観光立県推進会議」でも、三陸道のトイレ問題が話題にのぼった。ポストコロナでインバウンドや教育旅行の新たな誘致を図るうえで、ネックになってくるだろう。震災復興が目的の無料道路ゆえに、声高に叫べないのが東北人らしさでもある。
県ごとの地方空港行政にも限界を感じる。自治体の広域連携や飛び地連携などが、かねてより進み始めたところで、コロナによってブレーキがかかった。旅行会社は、そうした縦割り行政に頓着せず、魅力的な観光ルート開発や誘客を進めてほしい。
仙台空港利用で将来、期待されるのがタイのマーケットだ。首都・バンコクと仙台の定期便が再開すれば、大きな前進になる。
もともと仙台市は、タイとの結び付きが深い。かつてタイ国政府観光庁に世話になり、タイ各地へ足しげくファムトリップで通ったころ、仙台市の職員の方とよく一緒になった。日泰の架け橋として相互交流を深めてきただけに、絆が深いのがうかがえる。
仙台を拠点にインバウンド誘客を進め、三陸道や東北道、さらにはJR東北・秋田・山形新幹線、常磐線などの列車組み合わせでルート開発をしていくことで、宮城県経済のみならず、東北各県が潤うことになるだろう。
先述の講演では、タイ人のショッピングや食の傾向についても簡単に触れさせていただいた。コロナ禍前のタイ人は、日本のコンビニスイーツのおいしさに驚き、果物が好きで桃やみかん、りんごを持ち帰った。人気の菓子は、お取り寄せしてまで購入する。ただし、東北人が好むあんこは、苦手なタイ人もいるようで、インバウンド向け商品開発も嗜好に合わせて進める必要がある。
インバウンドビジネスがコロナ禍で完全リセットされたことで、2023年はビジネスチャンスの年となりそうだ。かつてインバウンドに人気だった日本の化粧品は今や下り坂で、かわってアパレルが台頭を始めるなど流行の移ろいは早い。アイデア次第では、東北発の新たなインバウンドのヒット商品が生まれるかもしれない。
(淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)