新潟・福島・栃木3県に接し、緑豊かな山間に位置する群馬県の片品村は、人口わずか4千人強の小村だが、スキー客や尾瀬ハイキング、学生合宿などの需要が高く、宿泊施設は村内200以上にものぼる。また、村民の約2割は農業従事者で、高地を生かして高原野菜を作付けしている。
この片品村では、「住んで良し・働いて良し・訪れて良し」を旗印に新たな村づくりが動き始めた。片品村むらづくり観光課が中心となり、村そのもののブランド化を目指す。同課にこのたび、地方創生推進室が開設された。梅澤志洋村長の指揮のもと、室長の高橋祐介氏が、村の活性化に向け関係者らとともに官民連携プロジェクトの構築を図る。そこで、観光と農業に興味がある教え子2人のインターンシップ受け入れを相談したところ、高橋氏は、学生たちの世話役として陰ひなた、真夏の12日間を愛情いっぱいに支えてくれた。まさに、感動就業体験である。
実習初日、観光むらづくりワークショップが開催された。地域おこしデザイナーや観光コンサルタントからレクチャーを受け、さらには梅澤村長から直接、村づくり構想の話をうかがい、目指すべき方向性を知ってからプログラムに臨んだ。地域おこし協力隊と交流し、古民家再生の現場を視察して、村の観光や農業、商業にたずさわる人たちの熱い想い、秘めた魅力や課題などを学生なりに見聞して、そして吸収した。オフ日には登山靴を履いて、尾瀬ヶ原を踏破。笑顔が弾けた。
なかでも学生の印象に深く残ったのが、「体験の森・花咲森のキャンプ場」である。高山悦夫氏からキャンプ場経営について学び、実際に石窯でパンやピザを焼き、川魚を釣って野菜の収穫をした。にぎわいの場づくりの大切さを学ぶことができた。
学生の滞在先は、片品村観光協会の専務理事・倉田剛氏が、所有する空き家を開放してくれた。折からのスキー人口減や、夏の尾瀬観光が長引くコロナ禍で影響を受けている。そうした危機感のなか、倉田氏の生の声、切なる村観光への思いを聞くことができたことは大きな学びになった。村内の小規模旅館の経営状況や後継者不足、季節平準化への取り組みなど、課題についても知ることができた。
最終日、村役場の会議室で開催された報告発表会では、学生発表の後半に新規の事業提案がなされ注目を集めた。その名も「かたしな朝採り高原野菜プロジェクト」事業だ。夜の娯楽がほとんどなく、村民は夜10時には就寝するという。だが、早起きなことから、夏野菜の収穫に朝を活用したプランを考案した。泊数延伸効果も狙える。実際に畑で食べた、もぎたてのトウモロコシが生食で、甘みがあった感動をヒントにした。家族連れや都会暮らしの人たちの収穫体験、「朝市」で採れたて野菜を販売、朝食レストランでのメニュー提供など、具体的な事業展開案も盛り込んだ。発表会の様子は、翌朝の地元紙に掲載され、自信にもつながった。
発表準備は明け方までかかったそうで、真剣そのもの。将来は公務員か旅行会社の道へと進みたいと語った若い彼らは、「また違う季節で片品村を訪ねるつもり」と言って、高橋氏をはじめ村の人たちに別れを告げた。
(淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)