山椒(さんしょう)のお話の続き。前号冒頭で「山椒は捨てる所がない」と述べたが、山椒の名産地、兵庫県有馬地方では、何と山椒の木の皮も食すそうだ。樹皮をゆでて柔らかくしてから、外皮の下の薄皮をはぎ取り、灰汁(あく)を抜いた後、細かく刻んでしょうゆで炊き上げる、「辛皮」という佃煮だ。手間が掛かり過ぎるから、大量生産は不可能。国内でたった2軒しか販売していないようだ。
コレを食べると、舌がムチャクチャしびれるらしい。それもそのハズ。山椒の木の皮は手強いのだ。昔「毒もみ」という漁法があった。山椒の木の皮を干して砕いた粉末や、皮の煮汁などを川に流して、浮かび上がって来た魚を捕るのだ。山椒で舌がしびれるのは辛味成分「サンショオール」や「キサントキシン」等にまひ作用があるから。後者にはけいれん毒もあり、特に魚に毒性を発揮するため、こんな漁法が考えられたのだろう。この漁法は別名「辛皮流し」とも呼ぶというから、食べたときのしびれ具合はハンパないだろうと想像がつくが、お酒のアテとしてクセになる味だそうだ。
人間にとってサンショオールは、古来生薬として親しまれてきた。消化促進や整腸作用、発汗作用による新陳代謝の活性化、冷え性改善や脳の活性化などが期待できるという。また、「リモネン」等の香り成分からは、リラックス効果や血行促進効果が得られるそうだ。現在でも、国内山椒生産量1位の和歌山県産ぶどう山椒は、約4割が製薬会社に納められているというからビックリ!
さて、生産量1位が和歌山県なら、2位以下はどこか? 2位は高知県で、和歌山県同様ぶどう山椒を仁淀川周辺で栽培している。ぶどう山椒とは、その名の通り、ぶどうの房のように、大型の果実が数多く実る品種。3位は兵庫県で、前述の有馬山椒の他、養父市で栽培されている「朝倉山椒」という品種がある。以前この連載でもご紹介したが、突然変異の新品種で、とげも雌雄もない。大粒で辛味がマイルドなのが特徴。
4位は岐阜県で、標高約800メートルに位置する奥飛騨温泉郷の、高原川流域半径約5キロ以内の限られた土地で栽培されている「高原山椒」が名高い。小粒で香り高く、その香りは収穫後1年たっても衰えないという。他の土地に移植すると、この香りは出ないそうだ。
木の芽、花、実、木の皮と全て食べ尽くし、残った木の幹は、殺菌・解毒作用があり、おまけにスゴク硬いので、すりこ木に加工される。ホントに山椒は捨てる所がない。恐れ入った。
それだけじゃない。ぬか床に山椒を入れれば、抗菌作用で腐敗菌の増殖が抑えられる上、香りと風味も加えてくれる。お正月に無病息災を願って飲む「お屠蘇(とそ)」にも山椒は入っている。日本酒やみりんに袋入りの「屠蘇散」を浸して作るのだが、その中身は山椒や陳皮、桂皮などの生薬。「邪気を屠(はふ)り心身を蘇らせる」だなんて、頼もしい限りだ。
次号では、そんな山椒によく似た「花椒」について深掘りする。お楽しみに♪
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。