【口福のおすそわけ 457】山椒ってエライ!~その1~ 竹内美樹


 山椒(さんしょう)といえばウナギの蒲焼にかける粉、と思う人も多いだろう。だがそれだけじゃない。山椒は捨てる所がないといわれるほど、季節ごとにさまざまな形でその恵みを享受できるのだ。

 山椒は日本全土の山地に自生する、ミカン科の落葉低木。春に芽吹く「木の芽」は、料理の彩りや爽やかな香り付けに重宝だ。タケノコの煮物もコレを添えるだけで立派に見えるし、手のひらの上でポンッと叩いて香りを出し、お吸い物にそっと浮かべただけで、料亭の椀物みたいな味と雰囲気が出る優れモノ。ちなみに、ミカン科の植物の葉は、ポツポツした「油点」という部分に香り成分がたまっているので、叩くとその細胞が壊れ、シトラス系の香りが出る仕組みだとか。

 木の芽の香りとほんのりピリッと来る味が大好きで、何にでも載せたくなるのだが、イマドキ結構なお値段で、白いスポンジのベッドに1枚ずつ並べられて売っているから、気軽には使えない。ある時スーパーの店先で鉢植えを発見! これからは思う存分木の芽を楽しめるぞ♪ と喜んだのもつかの間、あっという間に天敵アゲハチョウの幼虫にほぼ丸裸にされてしまった。昨シーズンは涙をのんだが、今年は元気だ。

 さて、木の芽に続き晩春から初夏にかけて楽しめるのが「花山椒」。黄色い花が咲き切らないうちの、柔らかな蕾(つぼみ)が美味とされ、1本の木から収穫できるのは、1年でたった2日ほどという希少品だ。花山椒は実山椒より、辛味も香りもマイルドで上品な味わい。しょうゆ味のだしで牛肉とともにサッと煮れば、超激ウマ! 山椒は雌雄異株で雌株のみ実を付けるから、実となる雌花はほとんど流通しない。雄花に比べて甘味があるといわれるが、筆者もいまだ雌花は食べたことがない。

 続いて、実山椒が青々と実る季節となる。こちらも、旬はわずか2週間程度と短い。地域によるが、大抵5~6月ごろがピーク。青い実山椒は佃煮や塩漬け、ちりめん山椒などに加工される。その後9~10月ごろには実は完熟して赤くなる。香りがより芳醇になるが、秋まで実が付いたままだと親木に負荷がかかるため、生産者は少ないそうだ。赤い実は収穫後干しておけば、弾けて黒い種が飛び出す。三つに割けた様子は「割山椒」と呼ばれ、和食器の形にも用いられている。

 青い実も赤い実も、果皮を乾燥させてひいた物が粉山椒だ。ウナギだけではもったいない。蒲焼同様、焼鳥や照り焼きのような甘辛い料理に合うのはもちろんだが、鶏唐揚げの下味に入れても、お酒のアテにピッタリ。ポテサラだって粉山椒をプラスすれば、大人のおつまみに変身。ぜひお試しあれ。

 山椒を使った料理を「有馬煮」や「有馬焼き」などというが、由来は兵庫県の有馬山椒にある。有馬温泉では昔から、六甲山系に自生する「ヤマサンショウ」の佃煮を土産物にしていたそうだ。それが湯治客を通じて全国に伝わったのだ。有馬では何と、山椒の木の皮まで食すらしい。それって一体? 続きは次号で♪

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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