【体験型観光が日本を変える 155】田舎の価値は食にあり 体験教育企画社長 藤澤安良


 新型コロナウイルスによる肺炎の猛威は終息の兆しが見えない。大型客船の患者数は数百人に達し増える一方である。観光への打撃は計り知れないものになるであろう。一刻も早い新しい対策が待たれる。その間も全国各地に感染が広がっており、患者の出ていない県や地域でも懸念の声が聞かれる。

 相変わらず、ビジネスホテルを中心に泊まり歩いているが、どこもほぼ同じ造り部屋である。都市のホテル窓から眺める風景はどこも変わらず、オフィスやマンション、あるいはホテルなどのビル群と商店と住居である。そこで食べる朝食はいずれも味気ない業務用の出来合いの総菜ばかりである。品数はあっても珍しいものはない。つまりは、地産地消とはかけ離れている。

 過日、田舎の海浜の一軒家のホテルに泊まった。名前はおしゃれな横文字であったが、内実は名前のイメージほどにない。しかし、味噌(みそ)汁の具材が、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、カボチャ、エノキ、シメジなどで、食べる味噌汁であった。

 その前日も、前々日も味噌汁にはネギやわかめ以外の具はなく、汁のみを器に入れるという寂しいものばかりであったので、宿泊施設で数年ぶりに出会った味噌汁である。

 料理人を呼び、いったんは具材の多さを褒めたのだが、根菜類を減らし、旬菜(その季節にとれるもの)や豆腐とあげを入れるようにと伝えた。具が多い味噌汁は味噌の味に加えて野菜の甘みやうま味やキノコのだしなどが加わりとても深い味わいとなる。

 田舎の三セクの宿がことごとく苦戦しているのは、せっかく田舎に山菜、キノコ、野菜、米、魚介類などの生産地でありながら、それらを調達せずに食材納入業者任せであったり、料理人が生産者を訪ねての仕入れ交渉を行っている例は極めて少ない。料理人は、食材を吟味することも大きな仕事である。それを業者任せにするなら怠慢であり、プロの料理人ではない。

 忙しいとか、時間がないなどと言うのは魂のないプロ根性のない料理人である。さっさとお引き取りいただき、地元のご婦人たちの腕を借りる方がいいのは実証済みである。

 お手伝いしているある宿の料理人と魚の仕入れに出かけた。時には相手の言い値より高く買うということがある。買い叩くのではなく持続可能な無理のない金額を出すことになる。売り手も買い手もウィン・ウィンのよい交渉になる。地産地消のアピールと鮮度と味と物語とに付加価値を付けて見合う金額で売ることである。

 食料生産現場である田舎の価値は「食にあり」。おいしくない出来合い総菜の品数だけで見栄えを稼ごうとするバイキングは旅人を冒涜(ぼうとく)している。その土地のこれだというものをしっかり調理し、自信と誇りを持てる料理の提供こそが旅の目的にかなうものである。

 田舎の勘違いは野菜でいいのかなどと言うが、新鮮な取れたて野菜や、釣ったばかり、捕ったばかりの魚介類は何よりのごちそうである。さらには、その食生産現場の農林水産業体験が大きな旅の目的提案となる。

 
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