「旧来の観光団体からの看板の掛け替え」などの問題点が一部に指摘される日本版DMO。そのレベルアップはどうあるべきか。観光庁の有識者会議「世界水準のDMOのあり方に関する検討会」(座長・矢ケ崎紀子東洋大学教授)はこのほど、昨年11月から今年3月までの議論を中間報告にまとめた。全国のDMOの「底上げに向けた改善の方向性」として役割、組織、財源などについて提言した。
目的と役割の整理 地域の総合政策に
観光庁が日本版DMOの登録制度を開始したのが2015年。登録法人は本登録、候補登録を合わせて237法人に上るが、中間報告では、DMOの目的を改めて明確化。「観光で地域が稼げる仕組みづくりやオーバーツーリズム対策を含めた環境整備によって地域経済を成長させ、活性化させること」と整理。この実現には他の産業、文化、環境などの幅広い分野と連携し、経済政策にとどまらない、「地域の総合政策として取り組む必要がある」と指摘した。
検討会のヒアリングでは、例えば、地域連携DMO、八ケ岳ツーリズムマネジメント(山梨県北杜市、長野県富士見町、原村)が、同じエリアで形成する「八ケ岳定住自立圏」(総務省の地方定住促進プログラム)のビジョンに観光施策、DMOの位置付けが明確化されていることを説明した。
中間報告は「地域は、観光振興に関わる地域全体の体制に関する議論を行った上で、DMOの目的と役割を整理し、明確にすること」を求めた。
独自の海外発信 「禁止ではない」
DMOの役割では、「地域の観光資源の磨き上げや交通アクセスの整備、多言語表記といった受け入れ環境の整備などの着地整備を最優先に取り組むこと」として、「着地整備」の重要性を強調した。着地整備が不十分なのに、事業の比重がツールの製作を含めた情報発信に偏っているDMOが見られるという状況を問題視したためだ。
役割分担では海外への情報発信について、日本政府観光局(JNTO)との連携が議論を呼んだ。検討会では、効果の薄いプロモーション、関係機関の情報発信の重複も見られることから、「DMOの海外への情報発信は原則禁止とし、JNTOに一元化すべき」との意見が出た一方で、情報発信の独自ルートを持つ地域も多く、「効果を上げているDMOはある。独自の海外プロモーションは否定すべきでない」などの反論もあった。
こうした議論を踏まえて中間報告には、「DMOが着地整備の取り組みを行った上で、JNTOの海外ネットワークやマーケティングツールを最大限活用し、効果的・効率的に実施すること」。その連携では、「DMOは写真・動画など対外的な発信のための素材やツールの作成を行い、JNTOはそれらを活用して一元的に対外的な情報発信を行う」と文章化された。
この部分の解釈について観光庁の田端浩長官は、17日の専門紙向け会見で「DMOが独自に海外に情報発信することを禁止するという意味ではなく、JNTOの活用によって、マーケティングデータの蓄積の最大化、DMOに提供するデータの精度向上が図られるとともに、効果的に地域の認知度や評価を高めることができるという趣旨」との考えを示した。
中間報告には、JNTOを一元的に活用すべき理由として、JNTOが強化しているデジタルマーケティングのツールを全国のDMOが活用することで、JNTOにマーケティングデータが蓄積でき、JNTOからDMOに提供されるデータの精度が向上することなども挙げられた。
田端長官は「検討会ではDMOがJNTOを活用する上で、JNTOの態勢が十分なのかという議論もあった。国としてJNTOが対応できるよう環境整備を進めるべきとも提言されているので、その方向で取り組んでいく」と述べた。
下請けではなく 主体的に運営を
組織の在り方では、DMOの意思決定は「地域の関係者を中心に行うこと」として、文化財、国立公園、アクティビティー、農林水産業、商工業などの関係者の主体的な参画を確保するよう求めた。地域連携・地域DMOでは、役員の半数以上は地域の関係者が望ましいと具体化した。
DMOのガバナンス(統治)では、「行政の下請けではなく、主体的かつ自立的に運営」できるよう制度的な裏付けの検討を促した。検討会の委員からは「本来DMOは、公共的な資金を公のために民の論理で利活用するという仕組みだが、従来の観光行政と観光協会の旧来型ガバナンスの中に交付金や補助金を入れるという構造になると、どうしても官の論理で動いてしまう」などの課題も挙げられていた。
地域実情踏まえ 特定財源確保も
多くのDMOが課題とする財源確保。中間報告では、「地域は、安定的かつ多様な財源の確保を目指すべき。国が一律 の方針を示すのではなく、地域の実情を踏まえ、条例による特定財源(宿泊税、入湯税など)の確保を目指すことが望ましい」「DMOは、受益者負担の観点などから各財源の特性を踏まえ、地域の多様な財源をマネジメントし、活用することが重要」と提言した。
検討会のヒアリングでは、広域連携DMO、せとうち観光推進機構が「自立的な運営に向け、TID(観光産業改善地区)の研究を進めており、広域での運用を可能にする法整備を」と国に要望した。TID制度は、米国などで採用されている特定区域内の宿泊料金に一定料率を課すなどのDMOの資金調達の仕組み。税とは異なり、行政の予算編成、議会承認、執行とは異なるプロセスで資金を運用できる。
人材について中間報告は、プロパー職員の育成、外部人材の登用の両面に取り組み、「出向職員を中心とした組織体制から脱却」し、組織全体の専門性の向上を求めた。国には、「DMOの人材確保・育成を支援するため、国際観光旅客税の活用も視野に入れ、人材育成プログラムの創設、人材採用バンクの活用などを検討すべき」と提案した。
ガイドライン
中間報告は最後に、改善の方向性を踏まえ、国に対して、全ての地域、DMOにとって分かりやすい表現に留意したガイドライン(指針)を作成して、周知、徹底するよう求めた。