アフターコロナ市場における投融資マーケット(キャピタルマーケット)において、以下のとおり一層、「所有・経営・運営」の分離が一層進むであろうと予想されます。
(1)キャピタルマーケットの変化
観光産業は、パンデミックにより大きな影響を受けました。ただし、世界人口の増加傾向と所得水準の安定的増加傾向を背景に中長期的には非常に魅力的で有望な市場であることは変わりません。そのような市場にあって、新マーケットに向け必要な設備更新や新たなバリューアップ投資が今後一層強く求められてくるはずです。
必要な設備更新については、例えばアフターコロナ市場において引き続き感染症拡大防止対策の徹底や継続が求められるものと思われます。仮に今回のパンデミックが収束したとしても、完全な「終息」は容易に想定できません。さらに鳥インフルエンザウイルスをはじめとし、これまでから約8年周期でウイルスの脅威にさらされてきました。例えば一人1時間当たりの換気量(㎥/人/時間)を引き上げるための設備改修もその一例です。また自然環境との共生を徹底するための設備更新や、身体障がい者や高齢者等にとって快適な滞在環境造りを追求する改修も今後強く求められるものと考えられます。
新たなバリューアップ投資では、個人市場に向けに、ブランディングに沿った質感整備や快適空間の提供、ランドスケープの存在価値の見直しや、顧客滞在価値を向上させるような設え整備の徹底が求められるのではないでしょうか。施設の所有者は、経営者や運営者とは異なるハードウェアのプロとしての視点が、ホテル事業の成否にも関わり重要となってくるものと考えられます。アフターコロナ市場では、長期的には魅力的な観光宿泊産業に対する資本の拠出元として、またハードウェア管理や個人市場との調整整備のプロフェッショナルとして、経営とは別の所有機能の確立が進む可能性があります。
そしてここで、その大前提にホテル事業用不動産を賃貸収入に着目する投資用不動産へと変貌させ、事業リスクを切り離す適切な条項を備えた不動産賃貸契約も新たに模索されるように思います。
なお、キャピタルマーケットを構成する融資側にとっても、それらの情報を的確に把握できるような仕組みが求められることは言うまでもありません。
(2)経営市場の変化
経営市場における変化を考えてみます。コロナ禍を経て、投融資市場と新たに強固な協力関係を構築し、この新市場に対して必要な設備投資を整えること、そのために投融資マーケットに対して適切に事業モデルを説明できるプロフォーマを作成する能力とそれを可能にする仕組み造りが一層求められるのではないでしょうか。
別の視点では、顧客の安全安心を支援し強化するため地域との連携が非常に重要な要素となるはずであり、地域経済をけん引するという自覚と自らが観光産業を形づくるという気構え、地域における実際の取り組みが求められるはずです。その他経営会社に求められるであろう取り組みを列挙すると以下のような項目が列挙できます。
▽顧客に対する安全安心を地域一体で形成するために地域との連携力を有すること。
▽自然環境保全の取り組みや生物多様性の尊重を実践する取り組みを実践し、市場に情報提供すること。
▽地産品利用や地域住民雇用を促進すること。
▽地域経済に貢献する取り組みを重視すること。
▽身体障がい者や高齢者等にとってハートフルなサービス提供を追求すること。
▽サステナブルな事業を実現するために必要な財務管理能力を有すること。
▽持続的に上記を実践しうる企業風土や組織体制を追求すること。
(3)消費者市場と運営市場の変化
アフターコロナ市場の要点は、個人市場へのシフトである。個人市場では、滞在価値を見据えた現場のサービスコーディネート、つまりハードウェア、サービスメニューやスタッフ接遇内容を、安心感に繋がるブランドやコンセプトにより調整し具現化したメッセージとして顧客に伝える力が求められます。そのためには、個人市場に向けた高度な運営力とブランディング力、個人市場に対するマーケティング力とマクロ的な市場動向を俯瞰する情報収集力、そしてPR力が必要となります。特にマクロ的な視点で市場を俯瞰する情報収集力であるマーケティングは、個々の取り組みでは容易ではありません。より広域に、中にはグローバルに事業展開する運営者が情報収集力という観点から有利なのではないでしょうか。
管理会計を適切に適用した精緻な将来フォーキャストを示すことではじめて、所有・経営・運営相互間の適切なコミュニケーションが実現できます。運営者には、上記のとおり個人市場に向けたブランディング支援やマーケティング支援、PR支援に併せて、投融資マーケットに対し適切に事業モデルを説明できるプロフォーマを作成する能力とそれを可能にする仕組み造りが求められます。賃貸契約方式でのホテル経営を行う場合、経営会社にとっては今後事業リスクに見合った賃貸契約を模索する中で固定賃料と歩合賃料のハイブリット型賃貸契約あるいは、歩合賃料のみによる不動産賃貸契約等が増えるものと考えられます。そのような環境では、中立で客観的に収支を監督するAM機能が求められる他、この機能の一部を運営会社が保全することが期待されます。
最後に、今回のコロナ禍では、宿泊を検討する際にその施設が信頼できる施設であるのか等これまで以上に事前情報が求められるはずです。つまり、コロナ禍前と比べて「ブランド」の有無が一層注目されてもいる。
このようにアフターコロナ市場においては一層、「所有・経営・運営」の意思疎通が可能となる仕組みであり、それぞれが負担するリスク応分の適切なプロフィットシェアを設計された、環境変化に対して柔軟に対応できる不動産賃貸借契約等の存在がこれから強く求められるのではないでしょうか。
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史