最近のインバウンド効果により、ホテル業界は約30年前のバブル期以来の好況に見舞われている。リーマン・ショック以降に大量に出回った国内外の資金がホテル不動産に流入し、やはりバブル期以来のホテル開発計画・売買取引ラッシュであるが、このような時こそ経営者はきちんと足元を見直す必要がある。
ホテル業界の経営や投資に関して、好調な時こそ「常識」としてまかり通っていた根本的な部分で「勘違い」が存在し、それが後に大きなとばっちりとなって跳ね返ってくる。
例えば、バブル崩壊前後では「ホテルの稼ぎ頭は宴会部門」と当時のホテル経営者や教育者は異口同音に唱え、1千平方メートルを超える大型宴会場を備えたホテルが各地に建設されたが、ユニフォームシステムなどによって示された部門別収支やその後の業況を見れば、宿泊こそが稼ぎ頭であったことは言うまでもない。
またリーマン・ショック前の外資ファンドによるホテル投資ラッシュ時では、投資の際に最も利用される指標として投資額や売り上げ等の数値をそのホテルの客室数で除する「パー・キー」が重用されたが、当時売却対象の主流であった宴会などの料飲部門が大半を占めるホテルだろうが宿泊主体型であろうが、区別なく比較指標として重用したことは、世界の名だたる投資ファンドが唯一ホテルセクターでは枕を並べて火達磨になった最大の要因の一つといえる。
この傾向は、今でもホテル投資ファンドや金融機関の担当者が使用し続けている状況に失望せざるを得ない。また、業界内外では外資オペレーターの運営力を過大評価しすぎ、これらオペレーターチェンジにより収益が悪化したホテル例も枚挙に限りがない。
紙面に限りがあるため現時点での「勘違い」については問題喚起するにとどめるが、「稼働率至上主義のレベニューマネジメント」「OTAに対する手数料・キャンセルポリシー」「IR・MICEへの期待」、そして「民泊対応」など、現在開発が続いているホテルは装置として40~50年持続するものであるからこそ、正しい経営分析・指標に基づく2020年後を見据えた長期的な経営の視点が不可欠である。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 ホスピタリティキャピタルマネジメント代表取締役 立教大学客員教授、平浩一郎)