【シニアマイスター経営の知恵 61】現場力は、表裏一体 川村敦子


 大型連休中に高速道路のSAを利用した。磨き上げられた洗面所に置かれた、みずみずしい菖蒲(しょうぶ)の花と折り紙の兜(かぶと)。その周りを外国人観光客が囲み、さかんにカメラに収めていた。別の日、休日で人もまばらな地下鉄のホームの転落防止柵を、手を抜くことなく黙々と拭く人の姿に思わず足が止まった。このような現場の地道な努力が国内外からの高い評価に通じているのは間違いないだろう。

 「利用する人のためを思いながら場を整える」。言うはやすいが、簡単ではない。ある客船運航会社で研修をしたときのこと。船内の施設管理を担当する部署の中堅社員(クルー)が「船内で電気がつくのも、普段通りにシャワーが使えるのも、お客さまは当たり前としか思わない」と、少々落ち込んだ様子であった。

 だが長い航海中、不自由なく過ごせることは決して「当たり前」ではない。船内のメインダイニングを2回転させ、数百名分のフルコースをおいしく、絶妙なタイミングでサーブできるのは、熟練の技と強いチームワークのなせる業だ。しかし当事者はそのすごさがピンとこないものだ。先のクルーも、他部署のメンバーや講師から、時間をかけてフィードバックをもらううちに、初心を思い出し、笑顔に返った。

 どのような世界にも、表舞台を支える裏方が存在する。しかし仕事において、その意味付けを個人の資質や経験、リーダーの指導力に委ねるだけでは十分とは言えない。顧客からの称賛・感謝の適切なフィードバックや視野を広げる機会など、組織としての取り組みや支援が不可欠だ。

 先の客船運航会社に今春も新人クルーが入社した。初乗船を前にした研修最終日、そのうちの一人が「船上で、お客さまに気付かれないように、当たり前のことを普通に実行する!」と誇らしげに宣言した。「この気持ちを絶やさないことが、後を引き継ぐわれわれの責任ですね」と、トップと人事が声をそろえたのは、何よりうれしい成果であった。

 (NPO・シニアマイスターネットワーク会員 株式会社ホスピタリティリソーセスジャパン代表取締役社長、川村敦子)

 
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