平成の初頭、かの有名なコーネル大学が主宰するサマースクール(Professional Development Program)に参加をさせていただいた。当時、実務経験が1年しかなかった身には、語学力の壁以上に専門知識の欠如が大きなハンデだったが、30年近く前に今で言うリベニューマネジメントの前身としての「イールドマネジメント」のアウトラインを見聞したり、「メニュー・エンジニアリング」と称した簡易ソフトプログラムでレストラン経営の成否をシミュレーションしたりと、今振り返れば、業界人としてのイロハのイの字を7週にわたって楽しく学ばせていただいた。
そういった知見を実働を介しつつ反すうして体得する時間もさして稼ぐ間もなく今に至る当方は、地方ホテルで複数セクションに関わるマルチタスクを支援し、時に直接担い続けており、わが社の同僚の多くも同様である。雇用環境が昭和から平成、そして令和へと移り変わる中で、知識と実務を融合させ、会得させ続ける業界人としての必然は企業や事業所内の品質管理の一環として、あるいは、恵まれた雇用条件下での個々の研さんのたまものとしてスキルアップとし、自社の活力とすることが現代の王道と分かってはいても、都心部と鄙部の格差は広がるばかりと愚痴すら並べたくなる。
唯一すがり得る手法は、ブランディングやパッケージングといったマーケティング手法を駆使した一定の成果をSNS等を含めたメディア等の力を借りてどう拡散し、セールスに還元することで生じるであろう余力をいかに再活用するかだったりするわけだが、現場仕事以上に関わるスタッフのパーソナリティに成否が左右されやすく、率先して自らが取り組んでみたところで、結局のところは、振り出しに戻ってばかりのスゴロク遊びのようなありさまで、自身の才覚のなさにへきえきする体たらくぶりである。
そんな私自身の価値そのものも窓際どころか明らかに土俵際とも思える最中、再度自己の半生を整理し直して、かろうじて身に付けてきたものをどのようにかたちに残し、後継の世代の皆さんにどう評価してもらうか、間もなく震災後10年目を迎える社業の立て直しと同時に心して取り組むべき人生の転換点だと気付かされる毎日なわけだが、ご承知の通り、ホテル業の楽しさには枚挙にいとまがない。せめてその楽しさを教えられる存在でありたいと願う一方で、同様に楽しもうとする次の世代にしっかりとした機会を与えられる業界の再編に大いに期待をするところである。
(一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会仙台地区運営委員長 株式会社江陽グランドホテル代表取締役社長兼総支配人 仙台ホテル総支配人協議会会長 後藤隆博)