寒水の掛踊(岐阜県郡上市)
寒水の掛踊(かのみずのかけおどり)の見所は、とにかく華やかな装いと役者の多さ、笛、唄、踊りで奏でられる究極の祝祭感だ。役者は100人前後いて、鬼面の露払、大黒、おかめ、隈取の奴、3.6メートルのシナイという竹飾りを背負い、太鼓や鉦(かね)を打つ主役の青年4人、田打、笛、大傘、ササラ摺(す)り、花笠の子どもたちなどが登場する。毎年9月の第2日曜とその前日の2日間、たっぷり踊って練り歩く大掛かりな祭礼だ。
私が祭りに夢中になったきっかけも、同じ郡上市の大和町牧で復活された掛踊だった。山里で育まれた文化の結晶のように感じた。翻訳家で文筆家の池内紀も、寒水の掛踊を訪れたのをきっかけに、数年かけて全国の祭りを見てまわった旨、著書「祭りの季節」(みすず書房)で記している。
岐阜県郡上市一帯で行われている掛踊は、元来旧暦8月1日(八朔)に、雨乞いや豊作祈願をこめて行われた祭礼で、長野県下伊那地方の一部でも盆に開催される。どの地区でも「東西しずまれ おしずまれ」の唄い文句で始まる。
郡上市では、かつては集落から集落へ踊りを掛けつなぐように行われたともいわれるが、現在毎年開催するのは寒水のみで、寒水では明治維新期に中断した以外は、日程を変えながらも約300年続けられてきた。
祭礼は中桁家での奉納から始まり、神様道と呼ばれる旧道を練り歩き、寒水白山神社境内で奉納の演舞が行われる。神社での休憩時間には、役者たちが境内で宴会を繰り広げる、極楽のような光景が見られる。
2日目の最後、激しくシナイを打ちつけ花飾りを散らし終わった青年たちは重荷を降ろし、他の役者や見学者と共に輪を作って、「ヨイサーヨイサー」と掛け合う唄声に合わせて民謡「どじょ」を踊って締めくくる。部外者として見学していると、少しずつ地元の方に「もっと中で見たら」「ええよええよ」と声を掛けていただき、最後に一緒に踊って大団円を迎える感じがたまらない。毎回、来年も来られたらと思いながら立ち去るのだ。
(フォトライター・渡辺葉)
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寒水白山神社でのお庭踊の様子