和樂備神社おかめ市(埼玉県蕨市)
江戸時代、江戸と日本各地を結んだ大動脈に五街道がある。その一つ、中山道は、日本橋を起点に現在の埼玉、群馬、長野、岐阜、滋賀を通り、京都まで500キロを超える旅路を成していた。
69の宿場が置かれた中山道だが、二つ目の宿場があった蕨の師走を飾るお祭りが、まさにその頃の匂いを残す魅力的なものだ。そのお祭りの名は「和樂備(わらび)神社おかめ市」。毎年12月17日に、室町時代の創建と伝わる和樂備神社で行われている。
おかめ市という名が付いているが、東京でいう酉の市のことである。都内では11月に開催されるが、埼玉では12月に熊手市が立ち開かれる。なぜおかめかというと、隣の川口市を含むこの地域では、七福神や大判などの縁起物と共に、おかめの面を付けた熊手を売るお店が多かったからなんだそうだ。実際に露店を回ってみると、たくさんのおかめと目が合う。熊手の中心に存在するおかめの顔はどこか優しげだ。
神社境内には、社殿の周りまでひっきりなしに露店が連なっている。日が暮れると、黄色い明かりを放つお店の光景は、どこかノスタルジーを感じさせる。江戸の頃から、この光景は続いているのだろうか。熊手が売れると、都度聞こえてくる三本締めの威勢の良い声。これも変わらない風物詩なのかもしれない。
お気に入りの熊手を手に入れたら、参道を戻ってみよう。すると出迎えてくれる良い香りを発する屋台の数々。お祭りの定番グルメを出しているのだ。お好み焼き、焼きそば、たこ焼きとそそられる内容が店先に並ぶ。これを食べようと集まってきているのが地元の中高生。仲間たちと、お祭りを楽しそうに過ごしている姿が印象的だった。
さらにピンボール、射的、輪投げなどの子どもたちが楽しめる屋台もある。世代を超えて地元の方々が集まり、思い思いに思い出が作られているだろうか。蕨では、おかめに見守られるこのお祭りの変わらぬ風景がこれからも続いていくであろう。
(お祭りトラベラー・髙橋佑馬)
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おかめが特徴的な蕨の熊手