昨年9月に西九州新幹線が開通し、佐賀県嬉野市で「嬉野市観光戦略策定委員会」が発足されたことは、以前、こちらでもお伝えしました。
計4回の会議には、必ず最初から最後まで村上大祐市長が参加されていたのがとても印象的でした。外部有識者として、和歌山大学観光学部の出口竜也教授を座長に、JTIC.SWISS代表の山田桂一郎さん、そして私も参画しました。会議メンバーには九州運輸局観光部、佐賀県観光連盟誘客推進部なども加わりました。
地元からは嬉野温泉観光協会、嬉野温泉旅館組合副理事長、嬉野市商工会会長をはじめ、嬉野茶商工業協同組合代表理事、肥前吉田焼窯元協同組合理事長、嬉野温泉料飲店組合長といった名士たちが顔をそろえました。
参画した若手旅館経営者からは、「戦略策定を完成して終えるのではなく、プレイヤーをつなぐ、気軽に意見を交わせる場がほしい。家族経営などで情報が入りにくい人にはアナログな場が必要。情報格差があるのが現実だから、組合としてはコミュニケーションの場を作り続けたい」と頼もしい言葉も出ました。
ただここまでは他の自治体の観光に関する会議でもよく見る光景です。
嬉野市の独自性は、ご自身も子育てをされている村上大祐市長のご発案で、子育て実践者が参画したことです。
どのような人選だったか、市役所に聞いてみると、「育休中に、市のこどもセンターを活用し、また子育てサークルの中でストレス発散体操の普及もしていたこと。育休明けも仕事しながら、市の男女共同参画の会議などの委員を歴任していた方」という回答でした。
その子育て実践者が「会議は初回から緊張しましたが、市民へのヒアリングを徹底し、暮らす人の声が戦略に反映されていることが素晴らしいです」と発言されたのが、本会議の姿勢を明らかに示していました。
ヒアリングした結果、「町全体で一致団結してにぎわい、活性化を図りたい」「みんなで取り組んでいきたい」「市全体で一緒になって盛り上げていくことが大事」という市民の声もありました。すなわち単独で誰かがやる、いち団体がけん引するのではなくて、皆で手を取り合い進めていこうという意見です。
それゆえ、観光戦略策定には「市内全体でのおもてなし機運の醸成」という項目が入りました。
加えて、私が最も評価した点は、未来の嬉野の担い手である高校生にもヒアリングしたことです。合計42人へ聞き取りしたそうですが、「嬉野に来ないと体験できない観光資源をつくる」「嬉野にしかない施設や印象に残る場所をつくる」「嬉野にしかないものをアピールする」と、嬉野に特筆すべき要素をつくっていこうという考え方は、ヒアリングした市役所側もうれしかったといいます。高校生に嬉野の在り方について考えるきっかけを与えた点でも、このヒアリングは有意義だったと思います。
山田桂一郎さんの「戦略を立てない地域が多いが、それは現場が汗だけかくことになる。たとえ戦術が間違って失敗したとしても、戦略が間違ってなければ怖くない。立ち返れる戦略があることが大切。今後はアクションプランを立てていくこと。最も大切なのは、皆さんの暮らしを豊かにすること」という発言は、私も大いに納得しました。
最後に出口教授から、「戦略と戦術をきちんと区別すること。観光戦略を戦術に落とし込むことが大切だが、その大前提として、『どういう街を目指すのか』という大戦略があり、次に観光戦略へとつながる。実施していく中で修正をしていけばよい」と、座長らしいお言葉で会議が締めくくられました。
嬉野市観光戦略策定は5月をめどに公開されます。
(温泉エッセイスト)