「温泉ごはん 旅はおいしい!」(河出文庫)が、6日に発売されました。河出書房新社の担当編集者がこう宣伝文句を書いてくれました。
ひとっ風呂の後は、おいしいものが待っている!!
北海道から沖縄、さらには海外まで、名湯湧く地を訪れて味わった絶品料理&名物の数々や、そこで出会った多くの人々との交流をつづった、心も体も暖かくなるぬくぬくエッセイ。読めば温泉に行っておいしいものが食べたくなる!
食の老舗専門誌「味の手帖」で6年間連載した72編から52編を選定し、大幅に加筆修正して文庫で刊行しました(連載は現在も継続中です)。
温泉旅館の名物料理から土地のハレの膳やソウルフードまで、私が元気に旅して食べて感じたことが満載のエッセイ集です。
表紙イラストは大ヒット漫画「中華一番!」などで知られる漫画家の小川悦司さんにキンメダイの煮付けを描いていただきました。
写実的に描かれた絵のタッチは、愉快に旅したリアルな体験のみをつづった本書のイメージにぴったり。小川さんがキンメダイを生き生きと描いてくださったことで、本書を手に取ると、何かおめでたい感じがしてくるのが、私はとても気に入っています。
本書で最も伝えたかったのは「旅を愉(たの)しむ」こと―。
「愉しむ」とは、楽しい、心地が良い、癒やされるといったポジティブな感情を喚起するだけではありません。
私の旅のポリシーは「けがせず、旅を終えられたのなら万々歳」。
多少のアクシデントやハプニングはウエルカム。なぜなら、振り返ってみると、多少のアクシデントを克服した旅の方がはるかに記憶に残り、そのときに助けていただいた人との出会いを今も大切にしているからです。
本書では、やや突飛な行動が目につくかもしれませんが、それは私の性質ゆえで、人をまねて旅するのでは味わえない、オリジナルの旅だからこその醍醐味(だいごみ)です。
旅は人生に寄り添ってもくれます。
父が亡くなって、大きな喪失感に苛(さいな)まれているときに、夕食に父の陰膳を出してくださったある旅館の女将についてもつづりました。「宿は人の魂と魂の交流の場です」という女将の言葉にどれほど救われたことでしょう。
宿づくりの楽しさも表現しました。
“秘湯クリエーター”と題した一編では、時代の流れに関係なく、独自の世界観を宿やお風呂で実現した経営者を描き、その成功事例を追随する形で秘湯ブームが始まったことを記しました。
夏の戦の戦利品として秋田県湯沢温泉で喉を潤した稲庭うどん。アワビが“ダンシング”した房総鴨川温泉。私のルーツの新潟県栃尾又温泉で食した湯治する「ラジウム納豆」。海外編では、アメリカコロラド州の秘湯に入り、オーストリアのエリザベートゆかりの温泉で優雅な思いをした体験も出てきます。
さらに温泉そのものを味わう楽しさ、先人たちの温泉活用術もしっかり書きました。
温泉、食、旅の奥深さを丸ごとお伝えしています。
観光がただのレジャーではなく、国の基幹産業へ、いわば次のステージへと移行していくために必要なもの―、それは、「型どおりの旅からの脱却」です。
考え、自分なりの旅を組み立てる。そして考え、出会い、感じ、学ぶ旅へ。
もしかしたら人生をも変える旅となるかもしれません。そうした得がたい体験ができるならば、お金を使うことにも価値が生まれる。
観光産業としては、このようにして「関係人口」を増やしていくのが大切ではないでしょうか。
(温泉エッセイスト)