JTB商事(小川幸作社長)は12日、山梨県河口湖温泉「風のテラスKUKUNA」で「旅館ホテル経営セミナー」を開いた。関東、甲信越、中部を中心に旅館経営者ら83人が出席した。
小川社長は「JTB商事の07年度売上高約370億円のうち230億円は、建装・コンサルティング部門と旅館ホテル向け商事販売部門。百貨店やゼネコンから人をスカウトして一級建築士を4人そろえるなど、いま特に力を入れている」とあいさつ。「この分野をさらに強化して売上高を500億円程度まで伸ばしたい」と話した。
基調講演「2010年の大海原を目指して・暴風雨の季節を乗り越える旅館経営」の中で、松阪健・西武文理大学教授は、「すかいらーくは1980年代の絶頂期を経て、今は経営不振に陥っている。あのセブンイレブンもフランチャイズ店オーナーの高齢化やコンビニ店舗の過当競争で、1店舗あたりの1日平均売上高がかつての70〜80万円から55万円にまで落ち込んでいる」と指摘。「一部の外食産業やフランチャイズビジネスは『利は元にあり』の発想で標準化と効率化ばかりを追求してきた結果こうなった。同様の発想で異業種からの旅館進出組が業績を伸ばしているが、果たして今後はどうか。バイキング形式のローコスト旅館は、いずれスーパー銭湯などの温浴施設に食われてしまうのではないか」と苦言を呈した。その上で「本来は『利は売りにあり』だ。2010年は『価格』ではなく『価値』を提供したものだけが勝ち残る時代になるだろう」と締めくくった。
セミナー会場となった、風のテラスKUKUNAの宮下明壽社長は、JTB商事と二人三脚で行ってきた施設投資の概要を披露した。
90年に箱根富士屋ホテルに入社後、米国留学を経て、ハワイ州マウイ島のリッツカールトン・カパルアに勤務していた宮下氏は95年に帰国。実家の河口湖第一ホテルに入社し、01年に社長に就任。修学旅行も受けていた典型的な団体旅館を、富士山を望む河口湖畔という立地と雰囲気を生かし、ハワイをコンセプトにしたリゾート旅館に変身させた。
河口湖第一ホテルという祖父母の代から50年間使っていた屋号も変えた。宿名にハワイ語で「日の光」を意味する「KUKUNA」を入れた。
04年2月からJTB商事と構想を練り始め、1年間の休業、工事期間後、06年11月に新装開業した。
中央館(本館)後背地のがけを削って、最上階に露天風呂付き大浴場を持つ展望館を新築。テラス風呂付き客室14室を設けた。本館の改修は新たにテラスを増築したほかは、必要最低限にとどめた。総工費は15億円で、設計費、装備品なども含めた総事業費は18億円。
開業約2年のこれまで実績は、客室稼働率が1年目で70%、2年目で75%。定員稼働率は1年目が43%、2年目が46%。JTBの宿泊者アンケートの点数は、旧河口湖第一ホテル時代の75点から89点まで上がった。
1泊2食で1万2500円だった平均宿泊単価は、1年目に1万9000円、2年目に1万9500円へ上昇。平均総消費単価は2万円超となった。
同ホテルを担当したJTB商事の野口弘之・建装コンサルタントは「グランドオープンによる宿全体のイメージアップで、集客力が強まり、投資を最小限に抑えた中央館の平均宿泊単価が8千円上がった」と投資効率の高さを強調した。
風のテラスKUKUNAの宮下明壽社長