旅館経営者、理解示すも思い複雑
政府は3日、65歳以上の高齢者と基礎疾患を持つ人の東京都発着のGo Toトラベルキャンペーンを利用した旅行の一時自粛を呼び掛けた。既に札幌市と大阪市を目的地とする旅行をGo Toの対象から一時除外。両市発の旅行の自粛も促している。全国の旅館経営者は政府の決定に理解を示す一方、発表以降キャンセルが増えるなど実害も訴える。自粛要請や除外についての見解、自館への影響などを全国の旅館経営者に聞いた。
「当地の商売のことを言えば、首都圏からのお客さまが多い温泉地で今回の自粛は非常に残念」。こう語るのは東京からのアクセスもいい、ある温泉旅館の経営者。ただ、「これから年末年始や本格的なスキーシーズンを前に、この第3波を抑えるためには仕方ないかと思う」と、政府の決定に理解を示す。
四国の旅館経営者は自粛要請や除外について「しかるべき対応」としながらも、「経済効果からも、今回Go To除外となる地域への公平な施策が必要。全国のGo To終了後も、該当地域は自粛期間分の延長利用を可能とすべきだ」と訴える。
関西の旅館経営者は「(大阪市からの)発地除外は強制ではなく、要請でお願いしたいと言ってきたが、守られてほっとしている」と心情を吐露。「(強制除外は)宿泊施設に相当な負担がかかる。グループの中に大阪市内在住の方が数名いたらどうするのか。現地払いならまだしも、事前決済の場合どうするかなど、考えただけで気が遠くなる」。
東北の旅館経営者は「札幌、大阪、東京については致し方ないことだと思う。しかし、エリアを限定したところであまり効果はないのでは、やるなら全体。キャンペーンの即刻停止だ」。ただ、「そうなれば日本全体の経済に影響が出るだろう。何が正解か分かりかねるが、日々一人一人が感染対策をすることと、動くのであれば1~5人程度の少人数に抑えることか」と複雑な心境を述べる。
「現在の急速かつ全国的な感染拡大状況下では、自粛要請はやむを得ない」とは中部地方の旅館経営者。「観光業界人としてではなく、一国民の立場で考えれば当然、もしくはあまりに緩く、あまりに遅い」と手厳しい。「これ以上場当たり的な対応を続けた場合、国民にGo To(観光)イコール悪のイメージをさらに定着させてしまうのではないかと非常に危惧している」「目先の損得ではなく、中長期的な視野に立った判断と対応こそが、本当の正念場であるポストGo Toの観光復興につながっていくのではないか」と提言する。
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札幌市、大阪市からの旅行自粛は今月15日まで、東京都からは同17日まで。これらの都市圏をマーケットとする観光、温泉地では、自粛要請の発表以降、キャンセルが急増している旅館が少なくない。
「11月下旬からキャンセルが相当目立つようになった」(関西)、「第3波が騒がれるようになったころからキャンセルが非常に増えている。日々の予約通知とキャンセルが5対5ぐらいだ」(東北)と多くの旅館が実害を訴える。
九州の旅館経営者は「この1週間で550人のキャンセルが出た。地元の忘年会が軒並みキャンセルとなり、また大阪のお客さまのキャンセルも重なり、残念ながら12月は対前年割れしそう。11月半ばまでは対前年超えの推移で予約が入っていたので安心していたのだが」と肩を落とす。
中部地方の旅館経営者は「キャンセルはじわじわと発生し、新規予約受注は一気に減少している。実際の数字には現れない潜在的な需要の落ち込みこそが、まさに『コロナ不況』だと痛感している」。
中部地方の別の旅館経営者は「11月下旬あたりからキャンセルが増加している。新規の予約発生もあるので激減しているレベルではないが、医療体制の逼迫(ひっぱく)やGo Toに対する世論がさらに厳しいものになれば、キャンセル件数も増えるものと想定している」と今後の動向を注視する。
「継続的援助を」経営者の声
政府はGo Toトラベルキャンペーンを来年6月末まで延長する方針を固めた。方針が発表される前の段階で、Go Toを延長する場合はどこまでが適当か、その他、Go Toに関する政府や自治体への要望などを聞いた。主な回答は次の通り。
「欲を言えば一生続けてほしいぐらいだが、良い面(経済効果)と同じぐらい悪い面(労働状況)もあり、運用と予算の使い方はもっと限定的にした方が良いと思っている。全日で利用できてしまっていることで、コロナ前からの繁忙期にさらに予約が集中しており、平日の稼働にあまり効果が見られていない。これが現場の疲弊につながっている。全日から平日限定などの変更を検討すべき」
「Go Toの効果は絶大で本当に助かっている。延長は最低でも3月末、できればゴールデンウイークまで。やはりGo To終了後の反動が怖いので、段階的に助成率は引き下げをしてもらいたい」
「Go Toの延長についてはできる限り先々までを期待したい一方で、延長するのであれば、その日をもって地域共通クーポンは廃止、もしくは宿泊施設にばかり局地的に負荷がかかる現在の方式ではなく、もっと効率的で生産性の高い方法を検討、立案していただくことを切望する」
「Go Toは観光事業者としては1日でも長く実施してもらいたい。キャンペーンが終了すると一気にお客さまが減ることは明らか。ワクチンや特効薬を当てにできるまで行っていただければ最高。また35%の割引だけだとどうしても料金の高い施設に集中してしまうので、一律5千円引きなどの一定額割引を併せて行い、有利な方を活用できるなど、全ての施設が恩恵を受けられるよう制度変更を希望する」
「(キャンペーンが延びるのは)とてもありがたいこと。しかし、消費者の財布の中身は無尽蔵にあるわけではないので、延びたとしてもどれだけの人が利用するか。それにキャンペーンは劇薬、麻薬と同じ。薬が切れると一気に消費が低迷する。『泊まりに行きたい宿』にならなければ生き残りは難しい」
「アフターGo Toをどう乗り切るかが一番のポイントだと思う。雇用調整助成金も含めた上で、政府からの継続的な援助はお願いしたいところだ」