「統一しないことを、統一する」——全国27の温泉旅館がひとつのグループブランドへ、YADORIE 宿GROUPが2026年10月に始動


 株式会社女将塾は2026年10月、全国27施設の温泉旅館をひとつのグループブランドで束ねる「YADORIE 宿GROUP(ヤドリエ ヤド グループ)」を正式に始動させる。宿の名前も価格帯も料理も建物もばらばらなままに、「磨き続ける個性」「心からほどけて、ホッとする」「その土地とその宿にしかない体験」という3つの価値だけを共通の約束として掲げる。タグラインは「宿の数だけ、ストーリー。」。宿を標準化せず、それぞれの個性を競争力の源泉と位置づけるグループ戦略だ。

後継者不足・経営の複雑化——日本の温泉旅館が直面する3つの課題

 女将塾が向き合ってきた課題は3つある。

 第一に、後継者問題。世襲を前提にしてきた家業の構造が崩れ、次の世代へ渡せないまま静かに閉じていく宿が増えている。

 第二に、経営判断の難しさ。家業を引き継いだ経営者が日々の現場に追われながら適切な経営判断を下し続けることは容易ではない。

 第三に、集客と収益の構造変化。旅行会社経由からWeb予約へのシフトにより、集客手法もコスト構造もこの10年で大きく塗り替わった。

 女将塾はこれらの課題に対し、「温泉旅館の経営を、家業から『企業』へ」という方針で答えを出す。ただし、従来型のグループ化——看板やサービスをそろえ、運営を標準化する手法——は取らない。発表資料では「その宿が紡いできた物語は、標準化のなかでは残しにくくなります」と明示しており、あえてばらばらのままでいることを選択した。

ブランド名に込められた意味——「ヤドリエ」は宿で働く人そのもの

 ブランド名「YADORIE」は、「Yado(宿)」と「Rie(笑顔)」を組み合わせた造語だ。「Rie」はフランス語の「rire(笑う)」から着想を得ており、宿での体験を通じてゲストを笑顔で満たしたいという想いが込められている。

 また女将塾は、宿で働く人そのものも「ヤドリエ」と呼ぶ。ホテルで働く人を「ホテリエ」と呼ぶように、職種を超えて宿で働く人を表す共通の呼称はこれまで広く定着していなかった。その空白を埋める試みでもある。

 ロゴには水引をモチーフにしたシンボルマークを採用。「結び切り」ではない水引を用いることで、「何度でも帰ってきたくなる場所でありたい」という願いを表現した。赤・橙・茶の3本のラインはブランドの3つの中核価値を示し、水引の形のなかにはy・a・d・oの4文字が隠し文字としてデザインされている。ロゴタイプはゴシック体を採用。モダンさのなかに人のあたたかみを感じる書体と位置づける。

「統一しないものと、統一するもの」——ブランドの骨格

 YADORIE 宿GROUPが統一しないと明言するのは、宿の名前、価格帯、料理とおもてなしのかたち、建物・客室のしつらえ、そして誰に向けた宿かという5点だ。宿にランクや星をつけることもせず、27の宿はすべて並列に扱われる。

 一方、統一する「3つの約束」は以下の通りだ。

  • 磨き続ける個性
  • 心からほどけて、ホッとする
  • その土地とその宿にしかない体験

 それぞれの約束には色が割り当てられている。「磨き続ける個性」は赤(心の芯にある想い)、「心からほどけて、ホッとする」は橙(ほどけるぬくもり)、「その土地とその宿にしかない体験」は茶(積み重ねた時間と信頼)。

 運営会社の株式会社女将塾は「裏方」に徹する体制を取る。各宿の看板が「YADORIE 宿GROUP」に掛け替わることはなく、各宿のロゴとの組み合わせ方はブランドガイドラインで規定される。

北は岩手・秋田から西は山口まで——27施設の顔ぶれ

 現在グループに属するのは全国13県、27施設。最も古い宿は1312年(正和元年)開湯の「白布温泉 東屋」(山形県米沢市)で、最も新しい建物は2025年新築開業の「お宿Onn 大曲の花火」(秋田県)。最小規模は5室の「湯元玉井館」(島根県)、最大規模は115室の「お宿Onn 湯田温泉」(山口県)。この振れ幅そのものを、女将塾は「私たちの主張です」と表現している。

 東北エリアには、「花心亭しらはま」「湖畔浪漫の宿 かたくりの花」「フォレストリゾート 山の手ホテル」「お宿Onn 大曲の花火」「安比高原 森のホテル」「湯野浜温泉 海辺のお宿 一久」「白布温泉 東屋」「芦ノ牧温泉 小谷の湯」の8施設が名を連ねる。

 北関東エリアは「おやど湯の季」「足尾の宿 かじか」の2施設。東海エリアは「河津温泉郷 海遊亭」「伊豆高原温泉ホテル 森の泉」「旅館 岐山」「恵那峡温泉ホテル ゆずり葉」「町家ホテルおやど baison」「お宿Onn 中津川」「浜辺の宿 かめや」の7施設。

 北陸エリアは「湖畔の宿 森本」、甲信越エリアは「白骨温泉 お宿つるや」「白骨温泉 小梨の湯 笹屋」「木曽駒高原 森のホテル」の3施設。関西エリアは「本州最南端 暮らすように泊まる古民家 NOIE」の1施設。中国エリアは「旅館ぬしや」「玉造温泉 RYOKAN OQOQ」「湯元 玉井館」「マリーンホテルはりも」「お宿Onn 湯田温泉」の5施設。

5つの宿が語る「個性」の実像

 27施設のうち、5つの宿のストーリーが公開されている。

 秋田県仙北市・田沢湖畔に立つ「花心亭しらはま」は1970年創業。秋田杉の内装、秋田蕗の葉を模した照明、曲げわっぱの意匠が特徴で、スタッフは秋田弁でゲストを迎える。料理のコンセプトは「秋田を伝える」。秋田ブランド黒毛和牛「錦牛」をはじめとする東北の食材を使った手作りの郷土会席を提供している。

 「白布温泉 東屋」(山形県米沢市)は開湯1312年、「奥州三高湯」のひとつとして上杉家の人々が通った湯治場だ。江戸期から続く石造りの滝湯は現役を維持する。2000年に隣家からの延焼で茅葺きの本館を焼失したが、翌年に杉を主体として山宿の風情を再現し再建。現在は30代の当主が受け継いでいる。

 「有福温泉 旅館ぬしや」(島根県江津市)は創業1748年ごろの老舗。3,000坪の敷地に古民家を移築した離れと本館を持つ、全9室の小さな旅館だ。二十四節気をコンセプトに季節ごとのおもてなしを行う。2015年、女将塾が初の直営施設として引き受け、その後数年でメディアに紹介される宿へと変貌した。「困っている温泉旅館を迎え、元気にする」という女将塾の原点がここにある。

 「河津温泉郷 海遊亭」(静岡県河津町)は全12室。かつては家族連れやグループなどあらゆる客層を追いかけていたが、「ただ海を眺める」ことに絞り込み、一人旅や静けさを求めるゲストへ向けた宿へと転換した。窓辺の椅子を選び直し、朝も海を眺められるよう客室清掃の開始時刻も変更。その結果、口コミの言葉が「接客が良かった」から「海を眺めて、まったりできた」へと変わったという。

 「玉造温泉 RYOKAN OQOQ」(島根県松江市)は、築60年超の「玉井別館」を2025年9月にリニューアルした全46室の施設だ。日本最古の美肌の湯と呼ばれる玉造温泉に立地し、島根県最大級のキッズパーク、地酒を楽しめるナイトバー、追加料金のないオールインクルーシブを備える。ターゲットは家族・3世代。建物を壊さず個性を新しく描き直す、YADORIE 宿GROUPのもうひとつのかたちを体現する施設と位置づけられている。

1996年の女将派遣から30年——女将塾の歩みとこれから

 株式会社女将塾の歴史は1996年4月13日、女将派遣事業としての創業に遡る。「日本のおもてなし文化を守りたい」という理念のもと、旅館の女将を育て、送り出すところから始まった。

 2004年8月20日に法人設立。旅館の運営受託と再生業務の請負を全国で重ねていく。転機は2015年の「旅館ぬしや」直営化だ。困っている宿を自ら引き受け、磨き直す事業へと舵を切った。

 2026年9月時点の従業員数は900名超。直営施設は全国27施設(13県)。そして2026年10月、YADORIE 宿GROUPを正式に掲げる。

 2030年には60施設への拡大を目標に掲げる。「次世代へつなげる宿が増えることは、守れる地域が増えること」との考え方が、その背景にある。ブランドサイトの公開、27施設を横断する会員制度の整備、各宿のストーリーの発信が、今後の主要施策だ。

 会社の概要は以下の通り。

  • 商号:株式会社女将塾(Okamijuku Inc.)
  • 創業:1996年4月13日
  • 法人設立:2004年8月20日
  • 本社:東京都千代田区神田錦町3丁目23番 神田錦町安田ビル11F
  • 代表者:代表取締役 三宅 大功(みやけ ひろのり)
  • 事業内容:旅館・ホテルの直接経営、運営受託、運営コンサルティング
  • 従業員数:900名超(2026年9月時点)
  • ミッション:日本の温泉旅館を元気にする!

 
 

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