日本初のクルーズトレイン「ななつ星in九州」。高価格帯にもかかわらず、抽選で乗車が決められるほどの人気である。
車内での夕食・昼食は、コース沿線の有名シェフが腕を振るい、朝食はななつ星の料理長が提供する。食材は沿線の産地のものが使用されるが、料理長が食材を選定し、お客さまへ提供するまでの物語について触れたい。
料理長は沿線の産地を訪ね、生産される背景、製法、生産者の思いなどを理解した上で、料理を通じてお客さまへ伝えたい食材・産品を決めていく。
大分県佐伯(さいき)市の山間部宇目(うめ)にメープルシロップの生産者を訪ねたときのこと。メープルシロップは、カエデの樹液を何時間も煮詰めてつくる。山の斜面にあるカエデの木、1本、1本に樹液を採取する穴をあけ、穴と採取容器をチューブでつなぎ、朝、容器にたまった樹液の量と採取した木を1本、1本記録しながら集めていくという大変な作業である。その作業をひとりで行っている女性生産者を訪ね、料理長と一緒に樹液採取に同行した。
カエデの木々から樹液を採取した後の休憩タイム。採取した樹液を口に含むと、ほんのり柔らかい甘味。料理長「この樹液で和紅茶を入れて提供したい。使わせてもらえないか」と。メープルシロップは多くの方が食した経験があると思われるが、原料となる樹液を飲んだことがある方はほとんどいない。和紅茶発祥の地のひとつといわれる宇目の和紅茶をメープルの樹液で入れ、味わってもらうことが、そこでしか経験できない価値となる。
お客さまは、生産の背景・過程、生産者の思いを料理長から聴き、味わうことで、さらに感動を生む。これこそがななつ星の価値のひとつとなるのだ。
料理長いわく「私の仕事は、料理を通じて生産者の思いをお客さまに伝えること」。 ((2)へ続く)
(九州産業大学地域共創学部教授 永松毅文)




