パネルディスカッション
若手確保へキャリアに魅力を 「五方よし」で地域の価値向上
日本観光振興協会(日観振)は9月25日、シンポジウム「働き手に選ばれる観光産業へ」をツーリズムEXPOジャパン(TEJ)2026のプログラムの一環として開催した。日観振が6月に発表した観光産業の中長期的なビジョンを踏まえ、観光の基幹産業化に向け、地域に価値を創造する観光の在り方、それを支える観光人材の確保・育成について、有識者の基調講演、観光事業者によるパネルディスカッションで今後の方向性を考えた。
基調講演では、中長期ビジョンの策定検討会の座長を務めた早稲田大学大学院経営管理研究科研究科長・教授の池上重輔氏が、「観光を持続的に『働きたい産業』に~価値創造型観光を支える人とキャリアの未来~」と題して語った。
池上氏は中長期ビジョンを基に、観光を余暇・消費活動から「価値を生む活動」へと再定義しようと提言。来訪者数や単価という指標だけでなく、地域に来訪者が深く関わることで生み出される収益や誇りを「価値密度」という概念で重視した。「訪問者にとっての価値を上げると同時に、地域の価値を上げる。この好循環を回すことが大事」と述べた。
「価値密度」を高めるために、観光は「五方よし」の産業を目指すべきと提案。「五方よし」とは、(1)住んでよし(2)訪れてよし(3)働いてよし(4)事業・投資してよし(5)自然・文化によし。池上氏は「この五つの価値が相互に高め合う構図を地域がどう設計していくかがポイントだ」と述べた。

早稲田大学大学院経営管理研究科研究科長・教授の池上氏
パネルディスカッションには、中長期ビジョンの策定検討会のメンバーを務めた観光事業者が登壇。地域の「価値密度」を高めるポイントについて意見交換した。
JR東日本マーケティング戦略部地方開発・流動創造ユニット副長の松木絢香氏は「事業者1社だけでは価値密度を高めることはできない。地域との連携が大事。お客さま、地域の皆さまとどれだけ一緒に事業を行っていけるかが重要だ」。
西武・プリンスホテルズワールドワイド「新横浜プリンスホテル」ファイナンシャルコントロール部門アシスタントマネジャーの杉田喜紀氏はホテルの立場から、「一つには、ホテルの滞在価値を上げ、しっかりとしたホスピタリティを提供する。もう一つが地域との関係。コンシェルジュ的な機能で地域の魅力を伝えていくことが大事だ」。
長野県観光機構専務理事の佐藤啓介氏は、域内調達率の向上をポイントに挙げた。「域内調達率を向上させるには、産業と産業などをつなぎ付加価値を創出することが重要だ。そこにDMOの果たすべき役割がある。地域内の人間関係を丁寧につくっていくことも域内調達率の向上につながっていくのではないか」。
日本航空(JAL)ソリューション営業本部関係・つながり創造部戦略グループアシスタントマネジャーの伊藤翔次郎氏は、関係人口に着目。「人数や回数の目標値だけでなく、いろいろな人々の思いが大切だ。地域を知り、人と地域がつながる、さらに人と人がつながり、その地域に深く関わるようになる。そうした関係、つながりを増やし、価値密度を上げることがこれからの観光の役割ではないか」。
一方で、地域の「価値密度」を高め、観光を支えていく人材の確保・育成が観光産業の大きな課題。日観振は中長期ビジョンと同時に、観光産業の未来を担う若者、若手に向けたメッセージを策定した。観光産業で働く魅力を整理し、「観光で生きる」という選択肢を提示した。池上氏は「観光を『地域の価値を世界に伝える』基幹産業へと進化させるには、働く人に選ばれる産業である必要がある」と訴えた。
人材の確保・育成に向け、観光産業で形成できるキャリア、成長のイメージについて意見を交わした。
JALの伊藤氏は「航空会社といっても運航の仕事だけではない。観光は裾野の広い産業なので、キャリアを考えるとき、視野を狭く捉えるのはもったいない。観光が世の中に対し、あるいは日本、世界に対し、どういった貢献ができるのかを考えることもできる」。
JR東日本の松木氏は「いろいろなキャリアを選択できるのが観光産業のいいところ。例えば、同じ場所で専門性を高めていく人もいれば、国内、海外問わず外に出ていく人もいる。そこに観光業でキャリアを形成するメリットがある」。
西武・プリンスホテルズワールドワイドの杉田氏は、若手の離職に言及。「若手の定着は、サービス業界、ホスピタリティ業界の共通課題。マネジメント、スペシャリストにおけるキャリアパスを整備する必要がある。離職する若手は、成長の実感が得られない、同じことの繰り返しというふうに捉えがち。スキルを伸ばす仕組み、学びの機会を提供するべき」。
長野県観光機構の佐藤氏は、人材の流動について提言。「私自身、広告業界から観光業界に来た人間だが、異業界での経験を生かし、観光業界で活躍できることは大事。ただそれだけでは不十分。逆に、観光業界を経験した人間が他の業界に行ったときに活躍できるといい。キャリアを考える上で、観光業界を経験しておきたい、という発想で飛び込んでくる人材を増やすことができる」と述べた。
【向野悟】

JALの伊藤氏

長野県観光機構の佐藤氏

JR東日本の松木氏

西武・プリンスホテルズワールドワイドの杉田氏

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