大柳氏
近畿日本ツーリストは今年4月、五つの支社を廃止し新たに事業部制を導入した。法人MICEや公務、地域共創、教育旅行の各事業を、戦略実行や予算執行責任を持つ「コーポレート・ビジネス(CB)事業部」「リージョナル・ビジネス(RB)事業部」「エデュケーショナル・ビジネス(EB)事業部」に再編。縦割りのエリア軸から事業軸にかじを切った。今回は、法人MICE営業などを担うCB事業部の法人営業部長・大柳春乃氏を訪問し、同社が手掛ける法人団体旅行の特徴や、受け入れ施設との連携について話を伺った。
――近年の法人団体旅行における傾向は。
社内研修やセミナーなどでは、コロナ禍を経て「受け身型」から「双方向型」へのシフトが見られた。会場レイアウトは、講師が登壇し参加者が聴講するスクール型からアイランド型に変わり、ディスカッションやチームビルディングの場が求められるようになった。
現代は、学生時代のほとんどをオンラインで過ごした新入社員が企業に入ってくる時代だ。コミュニケーションの「質」を重視する企業が増えている。「集まること」の意義を明確に示す使命を、旅行会社として強く感じている。
「目的重視」の傾向もある。宿泊施設の外に出向き、各種体験プログラムを組み合わせるケースも増えている。当社では、奈良市で企業イベントを催行した際、薬師寺に足を運び、法話を聴くという行程を組み込んだ。
外部でのインプットを取り込む傾向は、今後も強まるだろう。「なぜその都市で開催するのか」という背景を明確に示すことも、これまで以上に求められている。
――地域・施設との連携による成功事例を教えてください。
今年6月、自動車部品メーカーが開催するイベントを受注し、北海道ニセコ町で催行した。世界各地の役員・管理職が集まる100人程度の訪日案件で、従来は立地的利便性を考慮した大都市での開催だったが、より集中できる環境や特別体験などの要望を受けて検討。ニセコ町の宿泊施設から閑散期におけるMICE誘致の要望があり、開催に必要なファシリティやコンテンツが提供できることから、行き先を同町に決定した。
滞在中は、宿泊先のホテルが契約する地元農家で、ジャガイモやトマト、ズッキーニの収穫体験を実施。収穫物は当日夜のパーティーの付け合わせと、翌朝のブッフェで提供した。早朝には禅の先生を招き、静かな山の景色を眺めながらの瞑想(めいそう)体験も組み込んだ。参加者からは満足の声が多数聞かれた。

実際に提供されたブッフェ
ニセコ町は、冬季のスキーシーズンに世界中から観光客が集まる一方、夏季は需要が落ち込む地域。貸し切りに近い静寂の環境だからこそ実現できた。この閑散期こそが「MICEの旬」だ。旅行会社の使命は、繁忙期・閑散期に関わらずその地域の魅力を最大限に引き上げること。この事例はまさにその理念を体現するものとなった。
――宿泊施設との連携で重視していることは。
以前は営業担当者を介したコミュニケーションが主体だったが、コロナ禍を経てオンライン会議が普及し、現地スタッフと直接打ち合わせができるようになった。ホテルの料理長がオンライン会議に参加し、メニューの細部について直接意見交換するなどの環境が整いつつある。
一方で、宿泊施設の人手不足は極めて深刻だ。スキマバイトのスタッフが一定数含まれる現場や、外国人スタッフを多く抱える施設では、接客の前提認識のずれや言語障壁などが生じ、配膳が遅延する事例もある。
旅行商品は返品がきかない。旅の成功には、事前の詳細な情報共有とブリーフィングが不可欠だ。受け入れ施設と旅行会社が共に課題を共有し、事前のコミュニケーションを重ねることが重要だ。
――MICEの活性化に向け必要なことは。
CB事業部とRB事業部が緊密に連携することで、当社の知見と、地域ならではの視点を掛け合わせた提案が可能になる。物価や宿泊費の上昇が続く中、閑散期の地域・施設を活用することは、予算内で質の高い体験を提供する上で有効な戦略だ。
宿泊施設と旅行会社が互いに企画を練り上げる共創関係をさらに深めていくことが、今後のMICEの発展には必要だ。現地の産業や文化、その季節にしか出会えない体験といった要素を丁寧に組み合わせ、新たなコラボレーションを世に送り出し続けていきたい。

大柳氏




