旅館・ホテルが避難所に——あわら市と観光協会が災害時施設利用協定を締結、観光地防災の新モデルへ


 あわら市は2026年8月18日、一般社団法人あわら市観光協会と「あわら市における災害時の施設等の利用に関する協定」を締結した。

 締結式はあわら市役所で行われ、あわら市観光協会のほか、芦原温泉旅館協同組合、あわら温泉女将の会も参加。

 地域の観光関係者が一体となって、災害発生時における旅館・ホテルの避難所・一時滞在施設としての活用体制を整えた。

 

協定の骨格——宿泊施設を避難所として活用

 本協定では、観光協会会員が管理する旅館・ホテルなどの宿泊施設を、災害時の避難者受け入れ場所として活用することを定めている。

 対象となるのは、高齢者や障がいのある方などの要配慮者をはじめ、指定避難所だけでは対応が難しい一般避難者だ。さらに、観光客を含む帰宅困難者に対しても、一時滞在場所の提供に加え、食料・飲料水・トイレ・災害情報・交通情報などを提供できる体制を整備した。

 旅館・ホテルが持つ宿泊機能、食事機能、入浴機能を災害時にも活かす。指定避難所の受け入れ能力を補完しながら、避難生活の質そのものを向上させる仕組みだ。

 要配慮者に対しては、入浴や個室利用といった宿泊施設ならではの環境を提供できることが特長として挙げられている。体育館や公民館などの指定避難所では対応が難しい、きめ細かな避難環境の実現を目指す。

協定締結の背景——激甚化する自然災害と観光地特有の課題

 近年、自然災害の激甚化・頻発化が進んでいる。あわら市がこの協定締結に踏み切った背景には、地域住民の安全確保にとどまらない、観光地固有の課題がある。

 温泉観光地であるあわら市には多くの宿泊施設が集積している。平時から備わる宿泊・食事・入浴などの機能を、災害時にも活用できる強みを持つ地域だ。

 しかし一方で、多くの観光客が市内に滞在する状況で大規模災害が発生した場合、指定避難所だけでは受け入れ能力が不足する可能性がある。市民と観光客の双方の安全を確保するには、宿泊施設を含めた多様な避難先の確保が不可欠だ。

 今回の協定は、こうした状況に対応するため、より多様な避難ニーズに応えることを目的として締結された。特に高齢者や障がいのある方への配慮と、観光客の安全確保の強化が明示されている。

観光資源を防災に活かす——先進的な取り組みとして注目

 あわら市は「北陸有数の温泉地」として知られ、開湯140周年を迎えたあわら温泉は、第39回(2025年)「にっぽんの温泉100選」で全国7位にランクインしている。

 この豊富な観光資源——宿泊施設のストック——を地域防災に生かす取り組みは、観光と防災の連携を推進する先進的な事例として期待されている。

 行政と観光事業者が連携し、地域全体で災害対応に取り組む体制の構築。それが今回の協定が持つもう一つの意義だ。

災害対応マニュアルの改定——実効性ある防災体制の整備へ

 協定の締結に合わせて、あわら市観光協会は独自に運用してきた「あわら市観光事業者災害対応マニュアル」の改定を実施した。

 改定版のマニュアルには、協定に基づく支援内容、各機関の役割分担、平時からの準備事項、市・観光協会・旅館組合・観光事業者間の連絡体制などが明記されている。観光客対応や避難者受け入れをより円滑に行える仕組みを整えた形だ。

 協定の締結だけにとどまらず、マニュアルの改定によって実効性の高い防災・減災体制を整備することが、今回の取り組みの特長の一つとなっている。

今後の展開——訓練実施と連絡体制の整備

 あわら市とあわら市観光協会は、協定締結後、平時からの連絡体制整備と情報共有を進める。

 あわら市が実施する図上訓練では、協定の枠組みを活用した施設開設訓練なども実施する予定だ。災害発生時に迅速な対応ができる体制づくりを、訓練を通じて実践的に積み上げていく。

 一連の取り組みを通じて、あわら温泉エリア全体の防災力向上と、安心して訪れることができる観光地づくりを推進していく方針だ。

協定のポイント整理

 本協定のポイントをまとめると、以下の通りだ。

  • 旅館・ホテルの宿泊機能を活用し、指定避難所の受け入れ能力を補完
  • 要配慮者に対し、入浴や個室利用など宿泊施設ならではの環境を提供し、避難生活の質向上を支援
  • 観光客を含む帰宅困難者の安全確保と迅速な受け入れを実現
  • 行政と観光事業者が連携し、地域全体で災害対応に取り組む体制を構築
  • 協定締結に合わせて災害対応マニュアルを改定し、実効性の高い防災・減災体制を整備

あわら市について

 あわら市は、全国幸福度ランキングで2014年から6回連続1位を獲得した福井県の北の玄関口に位置する。北陸有数の温泉地としてのあわら温泉に加え、宿場町としての文化が残る金津地区、淡水釣りやカヌーが盛んな北潟湖、北陸街道の歴史が息づく吉崎・細呂木地区など、多様な魅力を持つ地域だ。

 今回の協定締結は、そうしたあわら市の観光資源を防災の文脈で再評価し、地域全体の強靱化につなげる試みでもある。

 
 

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