ALL東北、ONE東北で推進 訪日拡大、欧米豪にも本格参入
――今年6月に専務理事に就任されました。
JR東日本に1991年に入社して以来、旅行業、観光振興の仕事一筋で歩んできた。日本政府観光局(JNTO)では地域連携部長なども経験し、3年前から当機構の推進本部長を務めてきたが、11年間にわたって東北の観光に尽くされた紺野純一理事長が退任し、その業務を引き継ぐ形で現職に就いた。鉄道会社、旅行会社、JNTOにおける経験を生かし、東北の観光振興に全力を尽くしたい。自分自身としても集大成のつもりで取り組む。
――東北観光推進機構の役割、観光の現状は。
東北6県と新潟県をマネジメントエリアとする広域連携DMOで、官民連携、オール東北の枠組みで誘客を推進する組織だ。最大の課題はインバウンドの誘客拡大だ。東北・新潟7県の外国人延べ宿泊者数が全国に占める割合は2%に過ぎない。ただ、コロナ明け以降は増加傾向にあり、2019年の水準である206万人泊を2024年に上回り、昨年は309万人泊に達した。他のエリアよりまだ少ない現状にあるが、大きく伸びる可能性を十分に秘めている。
――インバウンド拡大への戦略は。
外国人延べ宿泊者数の約4割が台湾で、東北のインバウンドは台湾に依存している。台湾との交流を大事にしつつも、直行便の就航実績がある香港、韓国、タイといった市場を強化する。
加えて欧米豪市場への本格参入を進めている。フランスを中心とした欧州向けには、東北6県・新潟県、仙台市一体で取り組んでいる誘客促進事業が今年、3カ年事業の2年目に入り成果が出つつある。北米向けにはアドベンチャートラベル(AT)を軸に進める。昨年、ATを取り扱う旅行会社を東北に招請した成果を生かし、商品造成や受け入れ・流通環境の整備を進めていく。豪州には、スノーリゾートを核に東北の文化もあわせて誘客を強化する。
――観光DX、データ活用の施策も進めています。
コロナ禍でインバウンド誘客が難しかった2021年に、将来を見据えて『東北観光DMP』を構築した。域内の観光マーケティングデータを一元管理するプラットフォームで、動態データ、SNSの閲覧データ、クレジットカードの購買データなどを組み合わせて旅行動向を分析できる。自治体やDMOが、戦略立案やプロモーション、受け入れ環境整備に活用しており、AI(人工知能)なども含めて、さらなる高度化を図りたい。
東北の観光振興の鍵を握るのは、『デジタル』と『人』と考えている。年間を通じた講座で観光人材を育成する当機構の『フェニックス塾』は今年で11年目を迎えた。これまでに約400人の修了生がおり、東北観光の担い手として各地で活躍している。
――国内旅行の振興については。
東北の国内旅行需要は、コロナ前の水準にまだ戻っていない。東北・新潟7県の昨年の日本人延べ宿泊者数は3746万人泊だが、2019年比では92%にとどまっている。もともと東北は域内旅行の比率が高いが、地域の高齢化や人口減少が進んだ影響もあるとみられる。当機構では、首都圏を中心とした誘客促進に加え、旅行会社やOTAと連携した誘客事業『Base!TOHOKU』によって、温泉地を拠点にロングステイ、周遊を促す取り組みを続けていく。
教育旅行の誘致も重視している。東北には自然や文化、産業など、探究学習やSDGs学習に豊富な素材がある。また、東日本大震災から15年がたち、震災遺構や伝承施設の整備が進み、震災・防災学習の環境も充実している。教育旅行には旅費の高騰や訪問先の混雑といった問題があるが、東北はその影響が限定的なので、新たな実施先になるべく、東北一丸で、誘致に努めたい。
――東北の観光振興への意気込みをお願いします。
東北は国土の約18%を占める広大なエリアでありながら、インバウンドは全国の2%にとどまっている。しかし、東北には日本の原風景があり、オーセンティックな(本物の)魅力にあふれている。東京から少し足を延ばせば、別世界のような日本の原風景を体験できる。東北の魅力をもっと世界に発信したい。
今年度スタートした当機構の中期計画では、『持続可能な観光地の実現』をビジョンに掲げている。地域住民も、旅行者も、観光事業者も幸せを実感し、東北の自然・文化が守られる”四方良し”の観光を、ALL東北、ONE東北で実現したい。

渡辺氏
渡辺 厚氏(わたなべ・あつし)1991年4月、JR東日本入社。びゅうトラベルサービス常務取締役、日本政府観光局(JNTO)地域連携部長、JR東日本鉄道事業本部営業部観光戦略室長などを経て、23年7月、東北観光推進機構推進本部長。26年6月から現職。山梨県出身。58歳。
【聞き手・向野悟】




