【地域創生と観光ビジネス103】第31回「尾瀬の会」で「長蔵小屋」を守る平野紀子さんと再会 千葉千枝子


 自然保護運動発祥の地・尾瀬。昭和のハイキングブームでは人が殺到し、自然破壊が深刻だった。尾瀬を貫く自動車道建設案やダム計画もあった。幾多の危機を乗り越えて、今の美しい尾瀬がある。

 群馬・福島・新潟・栃木の4県にまたがる尾瀬は、特に群馬と福島が多くを占め、群馬は至仏山を、福島は燧(ひうち)ヶ(が)岳(だけ)の名峰を有する、”奇跡の高層湿原”だ。

 去年、東京都と淑徳大学が実施した観光経営人材育成講座のフィールドワークでは、群馬・片品村の鳩待峠から尾瀬ヶ原を往復する1泊2日のプログラムが大きな反響をよんだ。自然共生やサステナブルツーリズムという言葉が躍る今、尾瀬の歴史から学ぶことは多く、意義深い。

 尾瀬でゴミの持ち帰り運動が始まったのは、今から半世紀以上も前の1972年。1400個以上あったゴミ箱を、ひとつ残らず撤去した。今も山小屋では石けん・シャンプーの持ち込みを禁じている。山小屋備え付けの自然由来のものだけが、使用を許される。

 排水された汚泥は、尾瀬にある処理施設で処理水と汚泥とに分解される。処理水は片品村へ、汚泥はドラム缶に詰めてヘリコプターで域外へと搬出されるのだ。莫大なコストがかかるため、公共トイレでは協力金として100円程度のチップが求められている。

 今回、福島・檜(ひの)枝(え)岐(また)村の沼山峠から尾瀬沼畔の「長蔵小屋」をめざした。台風7.8号のダブル台風が関東に接近していた。

 お誘いいただいたのは「尾瀬の会」を主宰するウェンズ代表・西鳥羽洋子さん。94年に発足した同会は、今年31回目というから驚きだ。尾瀬に”大勢”をかけたネーミングで、多い年には40人もの参加があった。今回は9人と小パーティーだったが、半数以上が80歳代の超リピーターだ。去年、還暦を迎えた筆者は最年少。「若い」と持ち上げられたが誰もが健脚で、置いていかれないよう必死に歩いた。

 淡いオレンジ色のレンゲツツジが満開で、ミズバショウは実もたわわ。ワタスゲやゴゼンタチバナを愛でながら、豊かな気持ちで木道を進んだ。

 すると、小淵沢田代分岐のベンチに、先を行く西鳥羽さんと、どなたか人の姿がみえた。平野紀子(のりこ)さんだ。出迎えてくれたのだ。

 尾瀬最古の山小屋・長蔵小屋は、その名の通り、平野長蔵氏が明治時代、未踏の尾瀬を拓(ひら)いたことから始まる。2代目の長英(ちょうえい)氏は、今ある日本自然保護協会の前身を築いた。車道計画に身を挺して反対したのが、3代目・長靖(ちょうせい)氏である。36歳の若さで、この世を去った。以降、幼い子どもを抱えながら長蔵小屋を切り盛りしたのが、平野家に嫁いだ紀子さんだった。長靖氏が勤務した北海道新聞社で見初めた女性である。

 紀子さんと西鳥羽さんとは、札幌南高校の同級生というご縁で、長蔵小屋泊の「尾瀬の会」は続いてきた。去る1月の周年行事にも駆けつけてくれていた。

 翌早朝、雨脚が強いなか上下カッパの完全装備で一人、山小屋を発った紀子さん。今は4代目の太郎さんが山小屋経営を担う。紀子さんは私たちを出迎えるために、わざわざ今の居宅先から来てくれたことを知った。握手した手が、ふっくらとして温かい。また、お会いすることを誓った。

 (観光ジャーナリスト・淑徳大学経営学部観光経営学科教授 千葉千枝子)

 
 

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