リクルート旅行Division Vice Presidentの大野雅矢氏
株式会社リクルートは6月29日、東京・グランドプリンスホテル新高輪で「じゃらんフォーラム2026」を開催した。旅行Division Vice Presidentの大野雅矢氏が登壇し、リクルートおよびじゃらんの方針を発表。国内宿泊予約流通総額が2025年度に約1兆5000億円に達し、前年比107%の成長を遂げたことを明らかにした。
同フォーラムのテーマは「共に創る、未来の観光のかたち」。宿泊施設関係者や観光事業者らが一堂に会した場で、大野氏はじゃらんの三本柱となる方針――「集客の最大化」「宿の業務負荷軽減」「地域との共創」――を軸に、具体的な取り組みを次々と披露した。
過去最高水準を更新 1兆5000億円の節目

国内宿泊予約流通総額(国内宿泊関連サービス予約ベース取扱高、キャンセル・デイユース含む)は、2010年の3,958億円から2013年に5,408億円、2016年に8,552億円、2019年に8,730億円、2022年に1.16兆円と拡大を続けてきた。そして2025年度は約1兆5000億円に達し、前年比107%を記録。過去最高水準を更新した。
大野氏は「皆様の日頃のご活用に心より感謝を申し上げます。本当にありがとうございます」と宿泊施設関係者に謝意を示したうえで、「じゃらんは集客の最大化、宿泊施設様の業務負荷の軽減、そして地域との共創という3つの柱から引き続き進化を遂げてまいります」と宣言した。
リクルートの経営戦略 リクルートIDは国内9900万アカウントを突破

リクルート旅行Division Vice Presidentの大野雅矢氏
まず大野氏は、リクルート全体の方針について説明した。リクルートは「世界中で個人ユーザーと企業クライアントをより速く簡単につなぐサービスやプロダクトを提供し続けること」を掲げ、3つの経営戦略を推進している。
具体的には、「Simplify Hiring(人材マッチング市場における採用プロセスの効率化)」「Help Businesses Work Smarter(日本国内企業クライアントの生産性および業績向上)」「Prosper Together(ステークホルダーとの共存共栄を通じた持続的な成長)」の3本柱だ。
各サービスを通じて展開するリクルートIDは、国内アカウント数が9,900万(2026年3月時点)を突破した。特に20代では9割以上が利用しており、次世代へのリーチ力を高めている。蓄積された膨大なデータをプラットフォーム間で連携・活用し、AI技術によってマッチングを高度化。各マッチングプラットフォームでの予約アクションは年々着実に増加しているという。
集客の最大化 アプリ活用とAIで潜在需要を発掘
じゃらんの第一の柱は「集客の最大化」だ。大野氏は「リクルートの各種サービスから得られる広範なデータに加えて、スマートフォンアプリの利用促進によって蓄積された行動データをAIで分析・活用し、高精度なマッチングを実現してまいります」と述べた。
アプリという接点を活用することで、利用者の日常的な行動データをより深くかつ高精度で取得できるとし、「カスタマー自身もまだ自覚されていない潜在的な旅行意欲を鮮やかに発揮したい」と語った。一般的なマッチングにとどまらず、新たな旅行需要そのものを創出し、最終的には総旅行回数・消費額を高めていく考えだ。
アプリ促進施策としては、お得感の訴求に加え、有名タレントを起用した話題性の高い広告展開を実施。また、アプリ限定クーポンやポイント配布などのキャンペーンも積極的に行っていく。国内旅行検索アプリのインストール数はNo.1(2026年3月時点、Sensor Towerツールによる月次ダウンロードデータより)を記録している。
ふるさと納税事業に本格参入 地域来訪を促進
集客強化の一環として、大野氏が「この秋をめどにふるさと納税事業に本格参入いたします」と表明。宿泊予約に使えるクーポンを返礼品とし、地域への直接来訪を促進することで総地域消費額の増加を図る。
「ふるさと納税クーポンは、物の返礼品と異なって直接地域への来訪を促し、地域の本質的な価値に触れるきっかけを提供できます」と大野氏。まだ訪れていない地域との出会いや、一度訪れた地域との継続的なつながりを生み出す入り口として位置づける。
連携するのは、ふるさと納税サイトの認知度No.1(2026年1月時点、調査実施主体:株式会社さとふる、調査実施機関:株式会社インテージ)を誇る株式会社さとふる。シームレスな連携によって、多くのユーザーが手軽にクーポンを利用できる環境を整備する。両社の知見を生かし、自治体が導入しやすいサービス設計を推進し、日本最大級の参画自治体数を目指す方針だ。
業務負荷の軽減 レベニューアシスタントに「価格自動化機能」を新搭載
第二の柱は「宿の業務負荷軽減」だ。業界全体が直面する人手不足という課題に対し、テクノロジーの力で現場の負担を削減していく。その具体策として、既存サービス「レベニューアシスタント」に新たな「価格自動化機能」を追加リリースした。
大野氏は現場の課題を率直に代弁した。「もっと精明な料金調整をしたいけれど、そこまで手が回らない。料金を少し調整しておけばこの日のこの部屋を埋められたかもしれない。そんな悔える思いをされていらっしゃる施設様も多いのではないでしょうか」。
新機能では、事前に設定したルールに基づいて価格を自動変更できる。これにより、価格調整業務の負荷軽減はもちろん、漏れや見逃しをなくすことで収益最大化への貢献が期待される。
地域との共創 育成プログラムや横浜市の事例
第三の柱は「地域との共創」だ。じゃらんは2012年より「次世代旅館ホテル経営者育成プログラム」を継続して実施しており、これまでの累計参加者数は192名に上る。
同プログラムを通じ、宿泊施設の経営改善だけでなく、地域全体への好影響が生まれている事例も出てきている。その代表例が山形県天童温泉の取り組みだ。プログラムの卒業生を中心に「DMC天童温泉」を設立。自施設だけの利益を追う競争から、地域一体となった共創へと舵を切り、全体売上アップと人手不足解消を同時に実現した。株式会社滝の湯ホテル代表取締役の山口敦史氏は、プログラムでの学びが「時間だけではなく地域経営へと踏み出す大きな好影響を与えてくれた」と語っている。
横浜市での共創事例 プラン単価が通常比200%超
地域との共創にテクノロジーを掛け合わせた事例として、横浜市での取り組みも紹介された。各施設が個別にプランを作るだけでなく、エリア全体としてどのような魅力を打ち出すべきかを地域全体でワークショップを通じて議論。横浜市の事例では「記念日」というテーマを設定した。
そのうえで、じゃらんが持つ膨大な予約データやクチコミデータをAIで分析し、各施設ごとの特徴に最適化したプランを造成。ある施設ではクチコミから夜景や食への高評価を抽出し、夜景確約のインルームディナー付きプランを生み出した。また、近隣のランドマークタワーを活用したプランなど、各施設の個性が光る高付加価値プランが次々と誕生した。
その結果、横浜市の通常プランの平均単価比で平均200%アップを達成。クチコミ平均は4.53(横浜市平均4.21)と高い評価を獲得した。
ONSEN BATON PROJECT 温泉文化を次世代へ
地域の元気を将来につなぐための新プロジェクトとして「ONSEN BATON PROJECT」も推進している。温泉文化や温泉旅館の価値を次世代につなぐことを目的に、19〜22歳の若者を募集。2泊3日で地域交流・職業体験を通じて課題解決と魅力発信を提案し、じゃらんの伴走のもとで実践につなげていく。
「このプロジェクトで生まれた提案は、単なるアイデアで終わらせたくはありません。地域の未来を考えるこの機会が皆様の施設だけではなく地域全体を巻き込みながら広がり、やがて地域の文化や観光の形を少しずつ変えていく。私たちは本気でそんな未来を目指しております」と大野氏は強調した。
夏の集客強化施策 高割引率クーポンで予約伸び率58%増
フォーラムでは夏季の追加施策も発表された。7月の「じゃらんのお得な10日間」と「スペシャルウィーク」期間に合わせ、過去の施策で高い予約効果が確認された高割引率クーポンを発行し、露出も強化する。
過去データでは、クーポン発行なしの場合の予約伸び率が最大10%程度にとどまるのに対し、通常施策では約20%増、今回と同様の高割引率クーポンを活用した本施策では58%増を記録していた(2025年下半期での同様内容検証の結果)。今回はじゃらん側も負担するクーポンを追加で配布し、お得感をさらに高める方針だ。
「360度トラベルパートナー」として地域活性化に全力
発表の締めくくりとして大野氏は、じゃらんのサービスコンセプト「360度トラベルパートナー」を改めて掲げた。「私たちは単なる予約プラットフォームではありません。人と地域の出会いに満ちた笑顔があふれる世の中を作るため、地域社会の活性化に本気で全力で取り組んでまいります」と宣言。「私たちは地域社会を活性化するために、日々の生活を豊かにする新たな機会の提供に全力で取り組んでまいります。日本のために今やろう、アクション・フォー・ジャパン」と結んだ。
フォーラム当日は、13時30分の開場・14時開演に続き、「2040年観光の未来需要予測研究」(じゃらんリサーチセンター センター長・高橋佑司氏)、「変化する労働市場と宿泊施設の人材確保」(株式会社インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター上席主任研究員・宇佐川邦子氏)の講演も実施。16時からは「じゃらんアワード2025」の表彰式が行われ、2025年度1年間で優れた取り組みをした宿泊施設・地域が称えられた。表彰終了後には懇親会も設けられた。
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




