Expedia(エクスペディア)APACマーケットマネジメント副社長のマイケル・ダイクス氏
トラベルテクノロジーのグローバルカンファレンス「WiT Japan2026」が6月1・2日の2日間、ウェスティンホテル東京で開かれた。Expedia(エクスペディア)APACマーケットマネジメント副社長のマイケル・ダイクス氏も1日に登壇した。
ダイクス氏は1日、「北アジア2045:需要、人口動態、運命」と題するセッションで、アジア太平洋(APAC)地域の旅行市場の現状と将来展望について講演した。講演では、APACの経済規模や人口構造の変化、世界的な地政学的分断が旅行に与える影響、日本市場の特性、そして企業が取るべき戦略の方向性が示された。
APACは「旅行の中心」 2030年には世界中間層の65%が集積

ダイクス氏はまず、APACが2023年時点で旅行市場の中心であると位置づけた。同氏は「2023年、トラベルの中心はAPACにあった。成長しているというだけでなく、将来の形を形成している市場だ」と述べた。オンライン予約市場においても、アジア太平洋は世界最大の規模を誇るとした。
経済規模についても具体的な数字を示した。「2030年までに世界の中間層の65%がアジア太平洋に集中する。欧州、北アメリカをすでに超えている」と指摘。さらに、世界の富のうち35%がこの地域に集まり、上位10カ国に占める割合は42%に達するとした。
また、パスポートの安全性・旅行のしやすさを示す指標として、数週間前に公表されたランキングを引用。APAC地域ではシンガポールが1位、日本が2位、韓国が3位であると紹介し、「このパスポートに旅行のしやすさがシンボル化されている」と表現した。

高齢者とZ世代、同時に存在する二極の旅行者
ダイクス氏は、APAC地域の旅行者層として、高齢者と若年層という二極の存在を強調した。
高齢者については「健康で、アドベンチャーが好き、旅行が好き」な「シルバー人口」として特徴づけた。一方の若年層はZ世代・アルファ世代と呼ばれるデジタルネイティブであり、社会的にも新たな旅行需要を形成していると説明した。
特に注目すべき数字として、Z世代とアルファ世代の73%が「アジアのルーツを見たい」と考えており、欧米よりもアジアを旅行先として志向していると示した。「高齢者と若い世代を同時に見ていくことが非常に重要になる」とダイクス氏は述べた。
「旅行は水のように流れる」 地政学的分断も止められず

世界的な政治的・経済的分断が進む中でも、旅行の流れは止まらないとダイクス氏は断言した。「世界が細分化しても旅行は止まらない。いわゆる最も抵抗力の少ないパスを通って流れるのだ」。
IMFが人・モノ・資本・サービスの動きにくさについて警告を発しているとも紹介。燃料の高騰による航空便の減少やキャンセル、ビザ政策の変化なども旅行の障壁として挙げた。
その一方で、ビザ政策を賢く活用して新たな旅行者の流れを生み出している国々の事例も紹介した。中国は外国人訪問者が50%増加しており、その背景に効果的なビザ政策があると指摘。2025年にはロシア人旅行者510万人が中国・ベトナムを訪れ大きく、伸長したとした。カナダやブラジルについても、地政学的・経済的状況を活用して新たな旅行者の流れを生み出している事例として言及した。
「政治的に改定になるビザが開放的であり、決済がやりやすいところに人が流れる」とダイクス氏は強調した。
QRコード決済の拡大 APAC各国で統合進む「プロジェクトネクサス」

地政学的な分断は旅行インフラにも及んでいるとダイクス氏は説明した。決済システムの細分化がその一例だ。
かつてのデジタル世界では決済の仕組みが比較的一元化されていたが、現在は多様な決済システムが乱立している。「いろんな国が世界の決済システムを使えない状態にある」と現状を指摘した上で、新たな動きも紹介した。
1000万の新規加盟店がQRコードとユニオンペイを使えるようになっているとした。また、インド・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイにおいては「プロジェクトネクサス」によって決済システムの統合が進んでいると紹介した。
デジタルエコシステムの細分化についても言及し、決済のほかに輸送、地図、ショート動画、AIチャットなど、デジタルライフを構成する各要素が現在細分化されていると説明。「人類の40%が住んでいる市場では、主権的なデジタル生活が営まれている」と述べた。

「日本はデジタルディバイドの枠の外にある」 訪日4270万人の強さ

APAC全体の分断・細分化の文脈において、日本は異なる立ち位置にあるとダイクス氏は述べた。
「日本はいつも他の国とは違った。細分化される世界の中で、その分断された世界を超越することができる。なぜかというと、非常にパワーがある、とても特徴がある、そして需要が強いからだ。ですので、デジタルディバイドの枠の外にあるのが日本だ」と語った。
2025年の訪日外国人旅行者数は4270万人に上り、大きく伸長しているとした。新たな市場の台頭も示され、インド人旅行者が35%増加しているという数字が示された。
「勝者」の条件 三つを同時に実現できる企業

講演の後半でダイクス氏は、こうした世界の旅行市場において「勝者」となる企業の条件を三点に整理して示した。
第一に、国境やデジタルの境界を越えて、あらゆる旅行者にリーチできること。第二に、スイスのような完全な中立性を持ち、デジタルライフのあらゆるコンポーネントを取り入れていること。第三に、複数のチャンネル・プラットフォームで高い水準のサービスを一貫して提供できること。
「企業はこういった境界を越えてどの旅行者にもリーチできなくてはならない。全てのチャンネルでアクセスを受け入れなくてはならない」とダイクス氏は述べた。さらに「様々なチャンネル、いろんなプラットフォームで高いレベルを求めている旅行者にターゲットを向けることができる企業が、それを早く、そして適切な能力を構築できれば勝者になる」と言及した。
最後に聴衆に問いかける形で講演を締めくくった。「皆さんのビジネスの向こうにいる旅行者はどんな旅行者か、どのプラットフォームをサポートするのか。それを皆さんは考えるべきだ」。

マイケル・ダイクス氏はアジア太平洋地域におけるエクスペディアグループの宿泊在庫を管理するチームを率いる。2015年にエクスペディアグループにレプリゼーション・ディレクターとして入社し、同社での在籍期間でB2B領域の知見を積み上げてきた。エクスペディアグループ入社前はマイクロソフトでコーポレートアカウントディレクターを務めた。MIT(マサチューセッツ工科大学)で応用数学の学位を取得。沖縄生まれで、7歳からアメリカで育った。
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




