サンフランシスコ観光協会 代表兼CEO アンナ・マリー・プレスッティ(Anna Marie Presutti)氏
サンフランシスコ観光協会(San Francisco Travel Association)は2026年4月、サンフランシスコ国際空港(SFO)とともに東京でセールス・ミッションを実施し、日本の旅行業界関係者やメディアに向けて進化する街の姿を精力的に発信した。同協会のCEO、アンナ・マリー・プレスッティ氏に、組織の概要から日本人旅行者の最新動向、MICEの可能性、そして個人的な日本体験まで、幅広く話を聞いた。
年間予算4,000万ドル、宿泊税が支える自立した運営モデル
――サンフランシスコ観光協会は、何をミッションにどのような活動をされている組織ですか。また年間活動予算はいくらで、その財源はどこから来ていますか。
サンフランシスコとベイエリアを、コンベンション、ミーティング、イベント、そしてレジャー旅行における世界最高のデスティネーションとして世界に発信することが私たちのミッションです。サンフランシスコ市郡の公式デスティネーション・マーケティング組織として、個人旅行客を対象とした観光セグメント、MICEセグメント、空港(エアポート)チーム、そしてPRと、複数のセグメントが同時進行で連携しながら動いています。
2026年の年間活動予算は現在、約4,000万ドルです。財源の中心は「サンフランシスコ観光改善地区(SFTID)」という仕組みで、ホテルの宿泊者がチェックイン時に支払う宿泊税のうち一定のパーセンテージが私たちの運営予算として還流してきます。ホテルの稼働率が上がれば平均単価も上がり、回ってくる金額も増える構造です。これにメンバーシップフィーが加わる形になります。
2009年の予算は1,000万ドルでした。2019年には4,400万ドルまで増加しましたが、2022年は3,300万ドルに落ち込みました。その後、ホテル稼働率の回復とともに訪問者数も増え、現在は4,000万ドルの水準まで戻ってきています。良い兆しだと受け止めています。
日本は3〜4位の主要市場、消費額はコロナ前の83%まで回復
――サンフランシスコを訪れる日本人観光客の動向を教えてください。
2026年の日本人訪問者数は約11万3,000人と予測しています。消費額は約2億5,870万ドルで、前年比でも増加傾向にあります。2019年比で見るとコロナ前の83%程度の水準ですが、着実に回復してきており、とてもポジティブな状況だと思っています。
国別の訪問者ランキングで言うと、現在は英国と韓国が上位で、日本は3位から4位あたりに位置しています。中国はかつて上位でしたが、地政学的な影響からランキングに入ってこなくなっています。日本は依然として私たちにとって戦略的に極めて重要な市場の一つです。
直行便のネットワークも充実しており、JAL、ANA、ユナイテッド航空、ZIPAIRの4社が東京(羽田・成田)および大阪(関西)からSFOへ、週合計56便を運航しています。
――日本人観光客は、サンフランシスコで何にお金を使っていますか。ショッピング中心なのでしょうか。
ショッピング体験はもちろん、サンフランシスコに来られる日本のお客様は、体験やアクティビティにより大きな関心を向けるようになってきています。
ゴールデンゲートブリッジを「見る」だけでなく、自転車で渡ったり、ボートでその下をくぐったりといった体験の仕方が変わってきているんです。目的地そのものは昔と変わらなくても、関わり方がより能動的になってきている。そういった傾向を感じています。
サンフランシスコは7ブロック歩けば必ず何かしらの緑地に出会える街でもあります。ウォーキングやサイクリング、アーバンハイキングといったアウトドア体験も、観光の大きな柱になっています。
スポーツ都市としての底力、大谷翔平には「ステフィン・カリー」で応える
――ロサンゼルスにはドジャース・スタジアムがあり、大谷翔平選手の影響で日本人観光客の強力な誘客装置になっています。サンフランシスコとして、日本人へのアピールポイントはどこにありますか。
大谷翔平選手の影響力は否定しません。ドジャースがサンフランシスコに来るとなれば、日本の方々が試合を観に行きたいと思うのは当然の反応だと思います。
ただ、サンフランシスコはスポーツが非常に充実した街です。フォーティナイナーズ、ジャイアンツ、ゴールデンステート・ウォリアーズと、多彩なスポーツチームがあります。ロサンゼルスには大谷翔平がいますが、私たちにはステフィン・カリー選手(NBAゴールデンステート・ウォリアーズ)がいます。スポーツという観点でも、十分に魅力をお伝えできると思っています。
さらに、歩ける街であること、美しい街並みが続くウォーターフロント、チェイスセンター周辺を中心とした大規模な再開発で生まれた新しい公園やスタジアム、レストラン、ホテル群—。これらが複合的にサンフランシスコの魅力を作り上げています。
ミュージアム、公園、そしてアルカトラス島まで——MICEのユニークベニュー活用
――MICEの観点から、サンフランシスコならではの強みを教えてください。日本でも昨今、ミュージアムなど公的施設でのイベント開催条件が緩和されつつあり、地方都市がユニークベニューの開発に取り組んでいます。
サンフランシスコはこうした動きを長年にわたって牽引してきた都市です。人々がイベントや催し物を開く場所は、ホテルの宴会場に限らなくていい—。そう考えてきました。
ミュージアム、公園、桟橋(ピア)、市庁舎……通常ではなかなかイベント会場として想像しにくい場所でも、積極的に活用してきました。アルカトラス島でのイベント開催も可能で、実際にIPW(全米旅行産業協会主催の国際観光トレードショー、世界3大観光産業トレードショーの一つ)を10年ほど前にサンフランシスコで開催した際には、アルカトラスでのスペシャルイベントも実施しました。
場所を「使えるか使えないか」で判断するのではなく、「ここに人を集められるか」という発想に切り替えることが大切です。電力と水さえ確保できれば、可能性はどこにでもあります。
――市の建築規制は厳しいと聞きますが、イベント開催に関しても同様ですか。
建物の高さなどに関する建築規制は確かに厳しいのですが、イベント開催については市の担当部署が柔軟に対応してくれています。古い建物であっても利用が可能です。新体制の市長のもと、サンフランシスコをさらに魅力的な街にしていくことに注力しており、ビジネスの機会につながる取り組みに対しては行政側も前向きに関わってくれています。
ホテル業界が牽引するアメリカのDMO、「適材適所」を重視する文化
――CEOはホテルご出身とのことですね。日本の観光業界団体は大手旅行会社や行政出身者がリードしていることが多いですが、アメリカでは様相が違うように見えます。
必ずしもホテル出身でなければならないということではなく、アトラクション、エアライン、スポーツチーム、ミュージアムなど、何かしらの観光関連の経験があれば十分だと思っています。重要なのは「適材を適所に置く」ことで、サンフランシスコ——というよりアメリカ全体がそういう文化を持っていると感じています。
ただ、サンフランシスコにおいてホテルコミュニティが強い影響力を持っているのは事実です。先ほど申し上げた宿泊税の仕組みを通じて、ホテルは市の税収に大きく貢献しています。その分、発言力も自然と強まる構造があります。
広島の温泉旅館、そして「しゃぶしゃぶも好き」
――最後に個人的なご質問を。日本の温泉や旅館に行かれたことはありますか。
はい、あります。広島ですばらしい温泉旅館に泊まりました。ただ、アメリカ人にとっては、みんなの前で裸になって入浴するというのはやはり少し戸惑いを感じる部分があります(笑)。プライベートなお部屋に温泉がついている旅館であれば、より多くのアメリカ人にも楽しんでいただけるのではないかと思います。
――サンフランシスコにも日本食レストランがたくさんありますが、お好きな和食はありますか。
日本料理はとても好きです。お寿司が大好きで、特にまぐろが好きですね。それから、しゃぶしゃぶも大好きです。
――生の魚は大丈夫ですか。
もちろんです(笑)。
サンフランシスコは今、「文化的なルネサンス」の真っ只中にある——プレスッティCEOはそう表現する。AI・イノベーション経済の躍進、象徴的なランドマークへの投資、空港の大規模近代化(26億ドルを投じたターミナル3西側の改修が進行中)、そして街の安全性の向上。その進化の物語を日本の旅行業界パートナーと共有し、より多くの日本人旅行者にサンフランシスコを体験してもらいたいという思いが、今回のセールス・ミッションの根底にある。

アンナ・マリー・プレスッティ(Anna Marie Presutti)氏
サンフランシスコ観光協会(San Francisco Travel Association)代表兼CEO。
2024年9月、創設115年の歴史を持つサンフランシスコ観光協会(San Francisco Travel Association)の代表兼CEOに就任。同協会において女性がこのポストに就いたのは初めて。サンフランシスコ観光協会は、サンフランシスコ市およびサンフランシスコ郡の公式デスティネーション・マーケティング組織であり、米国で最も歴史が深く、最大規模の会員制観光推進団体の一つ。プレスッティ氏は、観光業界において20年以上のリーダー経験を持ち、就任以前はホテル・ニッコー・サンフランシスコの副社長兼総支配人を務めていた。キャリアの出発点はオーランドのウォルト・ディズニー・ワールド。その後はキンプトン・ホテルズ、ITTシェラトン、ヒルトン・ホテルズ、サンストーン・ホテル・プロパティーズなど、業界を代表する企業でホテル運営と販売戦略の専門性を磨いた。サンフランシスコ・ビジネス・タイムズ紙による「ベイエリアで最も影響力のある女性」への選出や、全米ホテル&ロッジング協会(AHLA)による「アウトスタンディング・ゼネラルマネージャー・オブ・ザ・イヤー」受賞など、数多くの表彰歴を持つ。現在は、米国旅行業協会(U.S. Travel Association)およびベイエリア開催委員会の理事を務めるほか、ミズーリ州立大学財団の評議員も兼任している。カンザスシティ出身で、ミズーリ州立大学でコミュニケーション学の学位を取得している。
【kankokeizai.com 編集長 江口英一】




