【観光立国・その夢と現実 73】私の人生訓⑨ 小原健史


 私の30歳代後半から40歳代前半は、私事で恐縮ながら最も華やかで、かつ無残な時期であった。その華やかさは事業的には【肥前夢街道】というテーマパークの開業で、また、旅館業界では全旅連青年部長に就任して全国各地を回り「旅館ホテルは地域の文化館・歴史館たれ!」と雄たけびを上げていた。 

 “好事魔多し”を絵に描いたようにバブル経済の崩壊により数年後にはテーマパークの事業破綻の憂き目にあった。 

 このことを人生訓として語れば【人に先見性はない! あるのは大いなる決断と不断の努力だ!】ということになると私は思う。

 “先見性”という言葉は経営者に必須のモノとよくいわれるが、しかし、明日の命も知れないわれわれ人間に先見性というものは本当にあるのだろうか? 精神論としての先見性は理解するが、実際に先見性があれば<今年の何月にはこの商品を売れば必ずもうかる>と言うであろうし、<あの新型コロナの災禍が2020年代にやって来る>と分かるのであろう。しかし、現実的には、そのような先見性はありえない。 

 世の中の経営者という者は全て、事業経営の中では毎日のように【大中小の選択肢】が待っていて、例えばA・B・Cの選択肢の中でどれが正解か? 悩み抜いて、いつまでも悩み続ける訳にはいかないので(多分Bが正解だな!)と思えば、大いなる決断をもって【B】に決める。そして、【B】に決めた瞬間から、その【B】を正解にする不断の努力が必要となる。そして、誰もが「その【B】の決断が正解だった」と思われるようにすること。これが【先見性】の本質ではないかと私は思う。 

 あえて言えば、旅館ホテル経営にも先見性はない。あるのは【大いなる決断と不断の努力】の連続だ。

 このことについて私自身が経験した実例を書こう!

 肥前夢街道の建設に際して、事前の1988年に記者会見を開いた。翌日「和多屋別荘が江戸村を建設」と大きな文字が新聞紙面に踊った。その段階で地元の人々の反応は大方「小原さんの親父さんは県会議長を20年以上務めてすごい人物だが、息子は何を勘違いして茶畑の中に江戸村を? 頭おかしかとやろう!」と吹聴された。しかし、建設工事が進み茶畑の中に大きな木造の建物が建ち始めると「何やらすごいモノが出来よるぞ!」となり、開業後に毎日数千人から1万人以上の観光客が押し寄せ、長崎自動車道の嬉野ICで降りる車で高速道路が渋滞した時には「さすが、小原さんの息子はすごかバイ、親父に似て先見性のある!」となってしまう(このような地元の方々に大変失礼な書き方で申し訳ない限りであるが、文脈と主旨を際立たせたいのでお許しをいただきたい!)。その10年後にバブル経済の崩壊の大波を食らって肥前夢街道は和多屋別荘とともに事業破綻した。その後は人々の口の端にも乗らなくなったが、これでも経営者には先見性は必要と評論家は言うのだろうか? 

 テーマパーク事業の破綻の元凶は、全国的にバブル経済の破綻で地価が暴落し、各取引金融機関のほとんどの貸付金が担保不足となったことで、各行ともにこの不良債権の処理を急いだので、弊社の債権も競争入札で売却されることになった。 

 買い手は国内資本2社、海外資本2社である。従来のメイン銀行の差配で各社1時間ずつの質疑応答が行われた。最後に現れたのが、1週間前から高級部門の水明荘に泊まって館内の写真を撮りまくっていた金髪の大男の米国人であった。 

 彼は言った。「さあやろう、この旅館は大変気に入った、ぜひ買い取りたい!」と。しかし、行司役の監査法人が1時間経過したところでアラームを鳴らし「これまで!」と話し合いを打ち切ったものだから、鬼のような形相になって「なぜだ、俺はここが欲しい!」と絶叫した。

 最終的に、国内資本の某社が落札したが、本当の苦行はそれから始まった。その会社の若い担当社員から「小原さん、弊社から和多屋別荘の社長を出すわけにもいかないので、とりあえず社長は小原さんが続けてください」と言われ、私はその日から即刻”雇われ社長”になった。

 立て続けに、その若い担当者が言う。「肥前夢街道は他に売却します。そして、和多屋別荘も人が多すぎるので約50人ほど従業員をカットしたい」と。私は猛反発して「従業員に責任はない。切るなら私の首を切ってくれ!」。担当者はオウム返しに私に言った。「小原さん、あんたは既に切られた雇われ社長だ。この社長室に部課長を集めて成績不良者の50人のリストを、すぐ作ってよ!」と。

 (元全旅連会長)

 
 
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