【VOICE】景色の先にある物語をどう伝えるか 公益財団法人 浜松・浜名湖ツーリズムビューロー 事業部長 伊藤典明氏


浜名湖から始まる環境理解型ツーリズム

 観光における体験は、「見る」から「やってみる」へと進化してきた。しかし次に目指すべき段階は、「理解する」への転換ではないだろうか。地域の自然や文化を消費するのではなく、その成り立ちや関係性を知り、自分なりの意味を見いだすことこそが、これからの観光の価値になる。

 浜名湖は、海水と淡水が混ざり合う汽水湖という特性のもと、多様な生態系を育み、漁業や養殖業、歴史文化と重層的に結び付きながら地域社会とともに維持されてきた。アマモ場の再生やブルーカーボンへの関心の高まりなど、環境価値を見つめ直す動きも広がっている。

 一方で、その背景にある構造的な価値は、来訪者のみならず地域内においても十分に理解・共有されているとは言いがたい。

 では、この湖で展開されている環境価値をどうすれば”伝わるもの”にできるのか。個別の体験をただ増やすだけでは不十分である。湖岸の風景、漁業の営み、食や温泉、人の動きそのものまでを一つの文脈で捉え直し、地域の成り立ちとして語る必要がある。

 そう考えたときに生まれたのが「浜名湖まるごと体験フィールド」構想である。これは、浜名湖に息づく環境活動や人々の営みといった既存の資源を、自転車による湖岸回遊や舟運などの移動手段によって結び直し、「なぜこの地域にこの営みがあるのか」という問いに応える物語へと再編集するものである。目指すのは、景色を楽しみながら、その背景にある環境や営みへの理解も自然と深まっていく”旅のかたち”であり、その体験自体が地域の物語を伝えていくものである。

 ここで鍵となるのが、DMOと地域のステークホルダーの関係性だ。私たちDMOは主役でも単なる調整役でもない。地域に点在する資源や営みを選び、つなぎ、その意味を社会に伝える”観光キュレーター”として、全体像を描く存在でありたい。漁業者、観光事業者、企業、行政、環境団体など多様なステークホルダーが強みを持ち寄り、互いの価値がより発揮される土台を整える。観光が経済的成果にとどまらず、環境保全や地域への誇りへと広がる価値の循環を育てること、その課程でそれぞれが役割を担いながら、主体的に参画することで、地域全体で観光を育てていく持続的な観光地域づくりの体制が形づくられていくと信じている。

 浜名湖を、景色を楽しむだけでなく、この地の環境や営みへの理解が自然と深まる地域へ。その未来像を、地域の皆さまとともに”かたち”にしていきたい。


伊藤氏

 
 
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