「高校生が地域の担い手に」——メタ観光推進機構がシンポジウム、山口の高校生が観光マップで受賞


パネルディスカッション

 メタ観光推進機構(牧野友衛代表理事)は3月26日、年次総会とシンポジウムを東京都千代田区で開いた。シンポジウム名は「メタ観光シンポジウムvol.12 観光を、若者が誇れる産業へ。高校生を地域の担い手に変える次世代観光まちづくりの新方程式」。牧野氏のあいさつと活動報告に続き、京都府立大学の関口達也准教授が、2025年度メタ観光助成事業「地域らしさカルタを用いた多様な地域資源やその価値の関係性の可視化―メタ観光的アプローチによる地域資源の体系的な理解に向けて―」の実施内容を発表。「メタ観光アワード2025」は、すみだランRun倶楽部の「すみだ向島メタマラニック」と山口高校観光班の「山口マニアマップ(ヤママ)」の2作品が受賞した。

 パネルディスカッションには、観光庁総務課長の河田敦弥氏、國學院大学観光まちづくり学部助手の黒本剛史氏、株式会社3in代表取締役CEOの岩本隆行氏、メタ観光推進機構理事で東京大学教授の真鍋陸太郎氏の4氏が登壇。同理事で武蔵大学准教授の菊地映輝氏がモデレーターを務めた。同パネルディスカッションでは「観光まちづくりをなぜ教育に取り入れるべきなのか?」「若者の参加が当たり前になった時代の観光まちづくりとは?」「観光の現場で取りうべきアクション」の3点について議論された。

5年の蓄積、「社会実装」へ前進——牧野代表理事が活動報告

牧野氏

 会場は東京都千代田区の御茶ノ水ソラシティ。18時30分に開会した。

 牧野代表理事はあいさつで2025年度の活動を振り返った。江東区ではメタ観光ガイドツアーを実施し、墨田区では4年ぶりにワークショップを開催、初のナイトタイム企画にも挑戦したと報告。なかでも特に力を入れたのが教育分野だとした。

 「若者が観光を『自分ごと』として捉え、地域の未来を主体的に考える姿は大きな発見でした。観光立国が進む中で懸念される住民との軋轢や人材不足への一つの答えも、ここにあるのではないかと感じています」(牧野氏)

 メタ観光とは同機構の造語。一つの場所にある多層的な情報や意味を可視化し、従来の観光ガイドには載らない「見えない価値」を掘り起こす手法だ。2021年の活動開始から5年、墨田区をはじめ奈良、長崎、江東区など複数の自治体と連携してきた。

 今年度は坂出第一高校(香川県)での授業を発展させ、山口県では5校の高校生を対象に観光まちづくり教育を本格実施。牧野氏は「メタ観光は観光を題材としながら、『視点を獲得する力』や『価値を言語化する力』を育む学びでもある」と述べた。

地域資源を「カルタ」で可視化——関口准教授が研究助成報告

発表する関口氏

 

 続いて登壇した関口達也准教授(京都府立大学)は、2025年度のメタ観光研究助成事業の成果を発表した。

 研究のテーマは「地域らしさカルタを用いた多様な地域資源やその価値の関係性の可視化」。対象地域は岐阜県飛騨市の古川町・神岡町だ。

 近年の観光行動はSNSや観光ガイドなど他者由来の断片的な情報への依存が高まっており、地域資源間の関係性の理解につながりにくいという課題があると関口氏は指摘。それを解消するきっかけとして「地域らしさカルタ」に着目した。

 ワークショップでは、住民と関係人口の参加者が午前中に街歩きを行い、「将来に残したい地域らしいもの」をスマートフォンアプリで記録。午後にはその写真を絵札、説明や想いを読み札としてカルタを作成した。

 古川町での2回のワークショップで得られた110枚のカルタを分析。各カルタにハッシュタグ(タグ)を付与し、タグどうしのネットワークを可視化することで、地域資源間のつながりを客観的に示せる可能性を確認したという。

 市内参加者と市外参加者を比較した分析では、市内参加者のほうが「『人』や『屋内設置物』など、観光ガイドには掲載されにくい要素」を多く取り上げる傾向が見られた。市外参加者は主要な観光資源を取り上げやすい一方で、市内参加者のカルタは地域資源間のつながりを学ぶうえで有効だとした。

 後半では、2025年11月に神岡町で実施した「地域資源の繋がり発見ワーク」の結果を紹介。タグを付与し毛糸でつないで「繋がり図」を作成するワークの実践で、参加者10人中9人が「地域資源どうしの関係性に興味を持てた」と回答したと報告した。

 「ある地域資源について知ると、別の地域資源との関係性が気になってくる。その疑問が解決すると、新たな疑問がさらに浮かぶ。その繰り返しで飛騨古川の街の理解が進み、面白くなって、他の場所に行きたくなる」

 これはヒアリング対象者の一人から得られたコメントだ。関口氏は「地域らしさカルタは、地域に対する理解・見方を深め、次の次元へと昇華させていくためのツールとして活用可能性を有している」と結論づけた。

 なお本研究は3年目を迎えたメタ観光研究助成事業の採択課題であり、応募資格は修士号取得済みもしくは修士課程在籍中の国内外の研究者。助成額は1研究あたり15万円。採択者は機構の会報誌への論文掲載とシンポジウム登壇が求められる。

初の「メタ観光アワード」、山口の高校生と墨田のランニングクラブが受賞

 総会パートの目玉の一つが、今年度から新設された「メタ観光アワード2025」の授賞式だ。

山口高校観光班「山口マニアマップ(ヤママ)」

 山口高校の現役高校生が制作した、山口市の「マニアックな魅力」を集めたマップ。地元住民へのアンケート調査をもとに400品以上の情報を収集し、メタ観光の視点でまとめた。

 登壇した同班のリーダーは「このマップを、旅行者に山口の日常をお裾分けするマップと位置づけています」と説明。「お裾分けするには、まず自分が持っているものを知る必要がある。そのうえで、魅力を伝えたいという思いがある」と述べた。

 現在は山口市の観光関連サイトへのPR記事掲載、湯田温泉の宿泊施設へのポップ設置が進んでいる。2025年10月から12月に予定されている山口県ディスティネーションキャンペーンとのコラボも動き出しているという。

 授賞状には「位置情報と多層的な情報を融合させたメタ観光の優れた実践であり、他の模範となるもの」と記された。

すみだランRun倶楽部「すみだ向島メタマラニック」

 墨田区の暗渠や旧街道といった「線」の要素と、メタ観光マップのビューポイントや地域フリーペーパー「すみだ報知」掲載のビューポイントという「点」の要素を組み合わせた、全長16キロのランニングコース。マラソンとピクニックを組み合わせた「マラニック」の形式で設計された。

 同クラブの代表者は「第一回のメタ観光アワード受賞、大変光栄に思っております」と謝辞を述べた。

 当日は試走の担当者や協力者もステージに立ち、イベントの経緯を紹介。「安渠をかつての川の道として、水路沿いには銭湯、工場などが残っていて、人々の営みを感じながら走れる」とアピールした。

すみだランRun倶楽部のメンバー

「山口県5校30名、高校生が地域の観光を動かした」——岩本氏が事業を詳説

岩本氏

 

 パネルディスカッションは菊地映輝理事(武蔵大学准教授)のコーディネートで進んだ。

 最初に登壇した株式会社3in代表取締役CEOの岩本隆行氏が、山口県で実施した「若者活躍による観光力パワーアップ事業」の詳細を報告した。

 事業の背景について岩本氏は、山口県観光連盟が主導して立ち上げた事業であり、連盟側に強い危機感があったと説明。コロナ禍後も近隣の福岡・広島と比べてインバウンド誘客が全国シェア0.2%にとどまっている現状がその背景にあったとした。

 対象は県内5市から選抜された約30名の高校生。参加校は下関商業高校(下関市)、長門高校(長門市)、山口高校(山口市)、新南陽高校(周南市)、岩国総合高校(岩国市)の5校。2025年8月から12月にかけて、2回のワークショップと、山口県知事へのプレゼンテーションが実施された。

 第1回のキックオフセミナー(8月2日、山口市)では、牧野代表理事・真鍋理事・菊地理事によるメタ観光の概念説明に加え、暗渠、電線、ドンツキそれぞれの専門家が講義と街歩きを実施。参加した22名のうち、「自分たちの地域の新たな魅力に気がついた」との回答が95%、「地域を回ってみたくなった」が96%、「地域への愛着や誇りが高まった」が91%に達した。

 第2回(9月15日、山口市のKDDI維新ホール)ではメタ観光マップの発表・審査と、観光事業化プロジェクトの提案を実施。山口高校の「山口ゆったり探訪」が最優秀賞を、下関商業高校1班の「下関の歴史漂うゴースト・ヒストリーつあ〜」が観光事業化プロジェクト部門の最優秀賞を受賞した。

 12月25日には最終成果発表会「#ふくの国イノベーション」を開催。高校生が山口県知事と地域事業者の前でプレゼンテーションを行った。

 事業者からは「若者が観光を『自分ごと』として考える入口をつくった点で大きな成果があった」「彼らの存在は、地域の観光を諦めかけている大人や現状維持を望む大人にとって痛烈な刺激になる」との声が寄せられたという。

 各校の取り組みを岩本氏は具体的に紹介。下関商業高校は地元旅館と組み、ゴーストツアーのコンテンツ化を提案。「ダンノーラ伝説」を活用した肝試しや、地元のお酒を楽しむ体験プランを構想した。長門高校は遊覧船を使ったディナークルーズと宿泊プランを提案。「夕日に向かって日本の最西端から観光船が走るイメージで、実現の可能性が出てきた」(岩本氏)。新南陽高校は工場夜景を活用したカップル向けツアーを考案し、地元の料理組合が協力。岩国総合高校では約140人の生徒が探究の時間に参加し、岩国版の「ヤママ」制作を目指している。

 「教育される側じゃなくて、むしろ観光の主役として高校生をどんどん展開できることが今回よく分かった」と岩本氏は述べた。

菊地氏

国学院大学・黒本氏、「300人全員で挑む観光まちづくり演習」を紹介

黒本氏

 

 続いて登壇した國學院大学観光まちづくり学部助手・黒本剛史氏は、「地域を見つめ、地域を動かす 約300人全員で挑む観光まちづくり演習の挑戦」と題して、同学部のカリキュラムを紹介した。

 2022年に開設された同学部は「観光まちづくり」を冠した国内初の学部とされる。「地域の個性を見つけ磨く」「つながりを作り生かす」「暮らしを支え豊かにする」「未来を作る人材と仕組みを育てる」の4柱を据え、文理融合の多様な専門家が一つの学部を形成している。

 学部の核となる「観光まちづくり演習」は1〜3の3ステップ構成。2年生の演習1では地域調査の手法を基礎的に学び、A2判のポスターを作成。3年生の演習2では300人が鎌倉を舞台に60人×5スタジオに分かれ、グループで地域の課題や魅力を探求。演習3では5つの地域(相模原・神田・湯河原・横浜など)に分かれ、地域への提案にまで踏み込む。

 「課題解決型の思考ばかりになってしまうと、地域の姿を捉えきれないことがある」と黒本氏は指摘。「独自の問題意識を持って、自分の気づいた魅力を炙り出してほしいと意識して指導しています」と述べた。実際に出てきたテーマとして、「鎌倉の小学校の校歌に現れる海や山のイメージの変遷」「鎌倉パスタがなぜ鎌倉を名乗るのか」などの事例を紹介。

 演習以外にも、DMOやまちづくり会社へのインターンシップ(30人限定)や、基礎ゼミナールでの地域との協働実践なども用意されているという。

「住んでよし、訪れてよし」——観光庁・河田氏が新計画を予告

河田氏

 

 観光庁総務課長の河田敦弥氏は、シンポジウム翌日(3月27日)に閣議決定される「観光立国推進基本計画」について触れた。

 「ちょうどあと12時間後に、観光の新しい計画が発表されます」と河田氏。計画にはまちづくりの観点が盛り込まれており、「住んでよし、訪れてよし」という観光の本質を改めて示すものになるとした。

 また、観光という言葉の語源についても言及。中国の古典「易経」に由来し「国の光を見る(見せる)」という意味を持つと説明。「観光の本質が書いてある部分として、計画の中でも言及されている」とした。

 若者の観光まちづくりへの関与については、「リアルなものへの渇望が、今の若い世代にはすごくある」と述べ、バーチャルが充実するほどリアル体験の価値が高まるとの見方を示した。

 規制緩和の観点からは、ライドシェアや民泊などを例に挙げ「やりたい動きを応援していく」と述べ、観光庁として補助金に加え、規制緩和による後押しを進めているとした。

パネルで議論——「観光まちづくりはなぜ教育に取り入れるべきか」

真鍋氏

 

 パネルディスカッションでは3つのテーマが議論された。

 最初のテーマ「観光まちづくりをなぜ教育に取り入れるべきか」について、岩本氏は「日本の素晴らしさは地域にこそ眠っている。若い方々が日本ってこんなに魅力があるところなんだと理解することがないと、観光はスタートしない」と述べた。

 黒本氏は「観光まちづくりを学んだ学生は人生を楽しめると思っています。自分の住んでいる地域、訪れた地域をより本質的に知る力を持っているから」と語った。

 真鍋氏(メタ観光推進機構理事)は「街というのは教材として非常に優れている。課題だけでなく資源もある。外から来る人も住んでいる人も見る街だから、いろんな立場で捉えられる」と述べ、観光とまちづくりを合わせた教育の意義を強調した。

 続くテーマ「若者の参加が当たり前になった時代の観光まちづくりとは」では、黒本氏が「観光まちづくりで稼げる世の中になっていく必要がある」と指摘。地域で関わりたい学生は確実に存在するものの、ハードルはまだ高いと課題を共有した。

 岩本氏は「今の高校1年生は2009年生まれ、iPhoneが日本に導入された2008年の翌年。つまり今の高校生はスマホと同級生です」と述べ、スマホネイティブの若者が観光のデジタルコンテンツ作りにおいて主力になれると語った。

 最後のテーマ「観光の現場で取りうべきアクション」では、河田氏が「アートみたいなものとの結びつき」を挙げ、観光文化芸術専門職大学の事例をモデルとして言及。黒本氏は「若者が気軽に集える場所が街の中にあることが大事」として、高山市の「古民家改装施設」や金沢の「学生・市民交流館」を好例として紹介した。

 岩本氏は「探究学習と観光によって学校と外部がつながる。文科省・経産省・観光庁がつながるような統合的な価値観を出すことができれば、かなり大きな動きになる。地域モデルを作って成功事例を作っていくことが重要だ」と締めくくった。

 菊地理事は「メタ観光推進機構の目的の一つにシビックプライドの醸成がある。小中学校からの教育の中にも、地域にポジティブな目を向けるきっかけを作ることができる。教育と観光を絡めた多世代にわたる事業を進めていきたい」と述べ、議論を総括した。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 
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