ニュー・ベーシック観光学 自然観光の科学―自然資源のマネジメント―
かつての「モノ消費」から、体験を重視する「コト消費」へ、そして近年では、その場でしか味わえない限定的な「トキ消費」や、環境保全・社会貢献といった意味を求める「イミ消費」へと、観光のあり方は大きく変化している。本書は「自然観光は、着地型観光の観点においても、トキやイミの消費の観点においても、廃れることはなく、むしろより重要なものとなっている」と指摘し、自然を観光資源として科学的に捉え、そのマネジメントを考えるためのテキストである。
本書は、2013年刊行の『よくわかる観光学シリーズ』の後継本として、この十余年で大きく変わった観光学の知見をまとめたものだ。観光を学ぶ大学学部生から、観光業や自治体の観光関連部署に携わる社会人までを対象とし、ポストコロナ時代の観光を考える上で必読の一冊といえる。
ポストコロナ時代の自然観光を科学する
COVID-19の世界的な流行は、人々に観光の心理的効果と、観光が自然環境に与える影響の大きさを再認識させた。移動制限下で多くの人が屋外での活動に癒しを求めた一方、観光客が激減したヴェネチアやハワイのハナウマ湾では自然環境が改善する事例も見られた。本書はこうした背景を踏まえ、「持続可能な観光の重要性が増す今日においては、自然観光を適切に管理していくことが急務である」と説く。
日本では自然科学の知見を中心として自然観光を体系的に学ぶ機会が不足しているという現状認識のもと、本書は地形、土壌、気候といった自然科学から、マーケティング、IT、メディアといった社会科学まで、多様な学問分野の視点から自然観光を分析するための基礎知識を提供する。
多角的な視点から学ぶ自然資源のマネジメント
本書は序章と終章を含め全14章で構成される。第1章から第4章では「地形・地質」「水・土壌」「気候」「自然環境」といった自然科学の基礎知識とツーリズムとの関わりを解説。続く第5章以降では、「インタープリテーション」「アドベンチャーツーリズム」「ニューロダイバーシティ」「メディア」「旅行会社・交通」「IT・情報技術」「保護地域制度」「マーケティング」といった、より実践的で現代的なテーマを扱う。
特に、発達障害者なども含めた多様な人々が自然を楽しむためのツーリズムを論じる第7章や、ユーザー生成コンテンツ(UGC)が観光地イメージに与える影響を分析する第8章など、今日的な課題にも深く切り込んでいる点は注目に値する。フルカラーの誌面で、観光立国基本計画の進展を受けたポストコロナの記述も充実している。
多様な専門分野の執筆陣
本書は、各分野の第一線で活躍する専門家によって執筆されている。
編著者を務めるのは、横浜市立大学国際教養学部准教授の有馬貴之氏(1983年生まれ、博士(理学))と、東京都立大学名誉教授の菊地俊夫氏(1955年生まれ、理学博士)である。
両氏に加え、以下の専門家たちが執筆陣として名を連ねている(五十音順)。
- 赤坂 郁美(専修大学文学部教授)
- 角野 貴信(公立鳥取環境大学環境学部准教授)
- 小池 拓矢(NPO法人シェルフォレスト川内集落支援員)
- 小林 健人(八王子市長池公園園長)
- ジョーンズ トマス(立命館アジア太平洋大学サステイナビリティ観光学部教授)
- トムソン ロバート(北星学園大学文学部准教授)
- 丹羽 葉星(中央大学研究開発機構准教授)
- 根本 裕太郎(横浜市立大学国際商学部准教授)
- 花井 友美(高崎経済大学地域政策学部准教授)
- 藤田 尚希(株式会社JTB総合研究所主任研究員)
- 目代 邦康(東北学院大学地域総合学部准教授)
- 山本 清龍(東京大学大学院農生命科学研究科准教授)
大学の研究者からNPO、公園、民間企業の実務家まで、多様なバックグラウンドを持つ著者による多角的な視点が、本書の大きな魅力となっている。
編著者は「本書で自然観光の様々な側面を学び、皆さんの理解が深まれば、より満足のいく自然観光の実現に近づくであろうし、それは私たちにとって本望である」と語る。本書は、読者が身近な地域の自然を楽しむきっかけとなるだけでなく、持続可能な観光の未来を考えるための羅針盤となるだろう。
B5判112ページ、定価3300円(本体3000円+税)。
発行=朝倉書店。





