渋谷の夜を語る東京都市大学の中島准教授
東京都は3月3日、第2回ナイトタイム観光フォーラムを渋谷区のSAKURA DEEPTECH SHIBUYAで開催した。都内観光事業者、都内自治体や観光協会・DMOなどから約100人が参加した。東京都市大学都市生活学部准教授の中島伸氏が「渋谷のナイトタイム観光のポテンシャル」と題して基調講演。また、渋谷区国際都市戦略特命部長の宮本安芸子氏が「渋谷カルチャーディストリクト構想~取組状況と今後の展望~」を講演した。パネルディスカッション「渋谷のナイトタイム観光を盛り上げるには」には、NEWSKOOL CEOの鎌田頼人氏、エグゼクティブプロテクション代表取締役の小林勝人氏、笹塚ボウル代表の財津宜史氏、一般社団法人日本ミュージック・バー協会副代表理事の村田大造氏、東京都市大学の中島准教授が登壇。ファシリテーターは、一般財団法人渋谷区観光協会理事・事務局長の小池ひろよ氏が務めた。
ナイトタイム観光推進エリアとは
東京都は、国内外からの旅行者誘致と新たな東京観光の促進を目的に、ナイトタイムにおける観光の活性化に取り組んでいる。その柱となるのが「ナイトタイム観光推進エリア創出事業」だ。
地域の理解促進と持続可能性に配慮しながら、エリアごとの特色を生かしてナイトタイム観光を推進するエリアを東京都が指定・支援する仕組みで、令和7年度は、渋谷カルチャーディストリクト協議会による渋谷エリアが選定されている。
同協議会の構成団体は、渋谷区、渋谷区商店会連合会、一般社団法人日本ミュージック・バー協会、一般社団法人渋谷再開発協会、一般財団法人渋谷区観光協会、一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント、一般社団法人JDDAの7団体。
支援内容は2年間で合計9,000万円を上限とする負担金のほか、民間事業者によるプロモーターが協議会の取り組みに伴走支援し、課題の検証や取り組みの具体化、参考事例の紹介、スケジュール管理などを行う。
本事業は「2050東京戦略」の戦略14「観光」における「ナイトタイム観光の推進」を推進する取り組みとして位置付けられている。
今回のフォーラムは、その採択エリアである渋谷の取り組みを広く知ってもらうことを目的に開催された。第1回は2025年8月25日に開催されており、今回が2回目。会場はShibuya Sakura Stage内のSAKURA DEEPTECH SHIBUYAで、「渋谷駅」にほぼ直結の会場に都内の観光事業者や行政関係者が集まった。
「渋谷の夜の移ろいに名前をつける」——中島准教授が基調講演

基調講演に立った東京都市大学都市生活学部准教授の中島伸氏は、都市デザインの視点から渋谷の夜のポテンシャルを論じた。
中島氏はまず、「夜っていつのことなんですか」「渋谷の夜ってどんな時間なんだろうか」という問いを会場に投げかけた。その上で、「渋谷の街における夜の時間の移ろいがどうあるのかを考えてみたい」と述べた。
同氏は、仕事を早く上がってビールを始めるワーカーの「16時」、これから繰り出す人々が待ち合わせに集まる「夜の7時」、表通りから裏通りへ物色するような「21時過ぎ」、まだ帰りたくない人ともう帰りたい人の綱引きが始まる「23時」、終電間際の道玄坂を転がり降りる「24時」、クラブが集まるストリートをホッピングする「午前2時」、空が白み始めて始発を待つ人々が動き始める「午前4時半」、昨日がまだ終わっていない「午前7時の裏通り」——と、渋谷固有の夜の時間帯とシーンを具体的に列挙した。
「夜には時間にまつわる言葉がたくさんある。言葉があるということは、それだけ夜の時間と風景には区別があるということ。その区別が大事にされ、違いが豊かに享受されているということは、すごく文化的なことだと思う」と中島氏。「渋谷にも固有の夜がたくさんあって、そこに紐づく言葉がたくさんある。そうしたものにもっと名前がついて、共有されていくと、ナイトタイム観光はナイトタイムカルチャーみたいなものになっていく」と述べた。
また、近年の再開発でオフィス床が増え、渋谷で働く人が増えたことを指摘。「アフターファイブみたいなものは、20年前よりも今の方が渋谷にとって受け皿として豊かにあるんじゃないか」とした。
中島氏は「スポットとスポットの間をぶらつくことの側の移ろいの方に価値を置いている」として、銀座の「銀ブラ」を例に、スポット間の回遊そのものを価値として捉える視点を提示。「時間と空間の移ろいをつなぐことが、これからの観光施策や都市デザインで重要になる」と締めくくった。
条例改正からカルチャーの可視化へ——宮本部長が渋谷区の構想を発表

渋谷区国際都市戦略特命部長の宮本安芸子氏は、渋谷カルチャーディストリクト協議会の構想と進捗を報告した。
渋谷の観光課題として、観光客の集中と、それに伴う路上飲酒・喫煙・ポイ捨てによる街の美観の損失を挙げた。「来ないでください、とは言いたくない。できるだけ悪いことをしないでください、というメッセージを送り続けている状況」だとし、条例改正で飲酒禁止などの禁止事項を並べている現状を説明した。
その一方で、「注目されるという状況や楽しみたいという人たちの熱気を逆にポジティブに転換するチャレンジをしてみたい」として、今回の採択につながった経緯を明かした。
強みの分析として、コロナ禍で行った調査(2022年)から、「渋谷のナイトカルチャーを支えているのは文化・エンタメ施設の存在」であることを改めて実感したと説明。大きなホールではなく、DJバー、ミュージックバー、クラブ、ライブハウスといった「小箱」が点在し、多様なジャンルのプレイヤーが集まって演奏していることが「非常に多様で面白いカルチャーの源泉」だとした。現在は約150のベニュー(会場・施設)を対象にアンケート調査を進めている。
また、「ミュージックバーや渋谷のカルチャーを目がけてテクノロジー産業やクリエイティブ産業の方が集まっている」ことが数字でも出ており、スタートアップや外資系テック産業が多く集まる渋谷の特性が、若者カルチャーと結びついている点も強みとして分析した。
構想の具体的な取り組みとしては、地域の文化施設・ナイトタイムの施設を「文化的な起源として調査・再定義」し、カルチャーをマップやカルテとして可視化・公開していくことを説明。カナダ・モントリオールの事例を参考に、街をショーケースの場として活用し、光やアート作品を街に染み出させることで回遊性を高める構想も紹介した。「街を歩いていて、カルチャーがどこにあるのかが、渋谷は広告ばかりでわからないという課題がある」として、サイネージの活用や、ポスターやチラシを置けるリアルな場所の整備も検討中だとした。
また、英国・ウェストミンスター地区(ロンドン中心部)の「アフターダーク施策」を参考に、地域住民とやりとりするオンラインプラットフォームの構築や、ステークホルダー同士が集まる協議の場の設置も視野に入れていることを紹介した。
将来像として、モントリオールのように「ナイトタイムで働く産業が一堂に会し、B2BとB2Cを混ぜながら業界全体が成長するモデル」を描いていることも言及。「観光施策として始めるが、それが産業の育成や文化政策につながり、地域の子どもたちのカルチャーの刺激にもなっていく」との展望を示した。
一方で課題として、東京都の支援終了後の持続的な運営モデルの構築、誰が主体となって取り組みを推進するかという担い手の問題を率直に挙げた。「行政にナイトタイムに特化した部署はなく、事業者も片手間でやらざるを得ない。負担が集中しないよう、デジタルも活用しながらスキームを作っていく必要がある」と述べた。
安全安心、役割の明確化、プレイヤーイニシアチブ——パネルディスカッション

左から小池、鎌田、小林、財津、村田、中島の各氏
パネルディスカッションでは、渋谷区観光協会理事・事務局長の小池ひろよ氏氏のファシリテートのもと、各登壇者が渋谷のナイトタイム観光を盛り上げるための取り組みと課題を語り合った。
NEWSKOOL CEOの鎌田頼人氏は、渋谷区観光協会と連携して「渋谷ナイトライフガイド」の特設ページ・マップを東京観光財団の助成で制作したことを紹介。「インバウンドの方も含め、どういうライフスタイルで楽しんでいただけるか」を意識し、音楽を楽しむセクションに加え、お酒を飲まない人向けの「ソバーフレンドリーナイト」のセクションも設けたことを明かした。また、渋谷でナイトカルチャーを作り続けているプレイヤーを67名ピックアップし、彼らの紹介と彼らがよく訪れるスポットを届ける取り組みも進めていると述べた。
海外事例としてオーストラリア・シドニーで開催される光と音楽の祭典「ビビッド・シドニー」を紹介。2022年の来場者は平均258万人で、総収益は1.2億ドルに達すると説明し、「光やアートをやればいいわけじゃなく、街のクリエイターやコミュニティのパワーをどれだけ引き出せるかが大事」と述べた。
エグゼクティブプロテクション代表取締役の小林勝人氏は、ロンドンやニューヨークの警備システムを視察した経験から、AI技術を活用したセキュリティ体制の強化の重要性を訴えた。「ロンドンでは、警察と街のセキュリティで役割分担がされており、緊急性・事件性が低いものは街のパトロール隊が、緊急性が高いものは警察が対応する体制になっている」と紹介。「安全安心が後回しになりがちだが、大前提に安全安心がないと価値ある街づくりはできない」と主張した。
笹塚ボウル代表の財津宜史氏は、笹塚ボウルが朝のシニア向けボウリングから、小学生の部活、会社の懇親会、若者のライブ・音楽イベントまで、多世代が同じ場所で交差する場所として機能していることを紹介。昨年だけで音楽イベントを200本開催したことも明かした。最後に「渋谷のナイトタイム観光を盛り上げるには役割の明確化が必要。役割を明確にするためにはまず目的の明確化が必要で、何のために夜の取り組みをやるのかを明確にすることで、それぞれの役割が見えてくる」と述べた。
日本ミュージック・バー協会副代表理事の村田大造氏氏は、40年近くにわたりクラブやミュージックバー、ライブハウス、野外イベントなどを手がけてきた経験から発言。コロナ禍での補助金の不足と多額の借り入れを強いられた現状を共有した上で、「渋谷は世界に向けてのポテンシャルが非常に高いのに、まだ生かせていない」と指摘。ボイラールームで撮影されたDJが1年で1760万回の再生を達成した事例を挙げ、「こうしたアーティストの後押しをしてほしい」と求めた。若者・Z世代の参加促進の重要性も強調した。
東京都市大学都市生活学部准教授の中島伸氏はディスカッションを受けての総括として3点を提示。「カルチャーディストリクト協議会が政策メニューの解像度を上げていく中で、どこからどういうストーリーで盛り上げていくかをさらに明確にする必要がある」と述べた。また、「規制緩和するぞと言うだけでは、緩和の対象になる人とならない人という分断が起きる。何のために規制緩和するのかというストーリーを社会に認知させていく戦略が大事だ」と指摘。さらに、「プレイヤーイニシアチブが非常に大事。どんないい政策を作っても、実際に動くプレイヤーとつながっていないと空回りする」と締めくくった。
【kankokeizaii.com 編集長 江口英一】




