【本だな】物語が生まれるフードツーリズム 消費される食からの脱却、メディアとしての食  青木洋高 著


物語が生まれるフードツーリズム

 〈食〉はいかにして“メディア”へと変わるのか。旅先での食事が、単なる消費で終わらない「物語経験」になるとはどういうことか。本書は、旅行者が地域に根差した〈食〉を通して、その土地の歴史や文化、人々の営みとつながる「フードツーリズム」の新たな可能性を提示する一冊である。

 人口減少や地方の衰退が課題となる日本において、地域の食資源を活かしたフードツーリズムは、持続可能な観光振興の鍵として期待されている。しかし、これまでの研究では、〈食〉は旅行商品を構成する一部分として、あくまで消費の対象として捉えられがちであった。本書は、この視点を転換し、〈食〉を人と地域をつなぐ「メディア」として位置づける。そして、旅行者が地域の物語にどのように触れ、関わっていくのかというプロセスそのものに光を当てる。

 その分析手法として用いられるのが「ナラティヴ・アプローチ」だ。本書では、生産者や地域の担い手といった多様なアクターとの相互行為のなかで、旅行者がいかにして物語経験を形成していくかを、具体的な事例を通して実証的に明らかにしていく。三重県の「海女小屋〈はちまんかまど〉」、広島県の「〈ビールスタンド重富〉」、鹿児島県の「ゲストハウス〈暮らしの宿 福のや、〉」など、個性豊かな現場をケース・スタディとして取り上げ、感想ノートのテキスト分析や会話分析といった多角的な手法でその実態に迫る。その考察から導き出されるのが、本書の核となる「フードツーリズムにおける物語経験の展開プロセスモデル」である。

 著者の青木洋高氏は、文教大学国際学部で教鞭をとる研究者であると同時に、旅行情報誌『るるぶ』シリーズの編集や、地域の食の魅力を発信する飲食店「るるぶキッチン」の立ち上げを手がけるなど、長年JTBグループで観光実務の最前線に携わってきた経歴を持つ。その経験に裏打ちされた、理論と現場を往還する視座こそが、本書に深い説得力を与えている。

 本書は、フードツーリズム研究に新たな地平を切り拓く学術書であると同時に、地域づくりや観光実務に携わる人々にとって、具体的なヒントと実践的な知見を提供してくれるだろう。単に美味しいものを食べる旅から、その土地の物語を味わう旅へ。〈食〉を通じた地域との新しい関わり方を模索する、すべての人に開かれた一冊だ。

 A5判288ページ、定価3600円+税。

 発行=明石書店。


関連キーワード
 
 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第39回「にっぽんの温泉100選」発表!(2025年12月15日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位道後

2025年度「5つ星の宿」発表!(2025年12月15日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第39回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング 」(2026年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト50を発表!

2025年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング」(2026年1月12日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒