【地域創生と観光ビジネス96】これぞ「日本の宿古窯」女将 三代・佐藤洋詩恵さんに捧げる 千葉千枝子


千葉氏

 「グッド・モーニング!」。携帯電話の向こうから明るい声が聞こえた。声の主は山形・かみのやま温泉「日本の宿 古窯」の二代目女将・佐藤洋詩恵さんである。筆者が信奉してやまない、憧れの女性の1人でもある。

 この電話は、洋詩恵さんが家族の付き添いでホノルルに長期滞在した直後のことだった。もともと国際派の洋詩恵さんだけに、ハワイから帰国後は立て続けにフランス・パリを訪ねられ、近ごろもパリに再訪したと聞く。背筋をピンとして、シャンゼリゼ通りを闊歩(かっぽ)する姿を想像した。

 三代目女将の奈美さんと太一社長が旅館を切り盛りするようになってから、多少は自由な時間ができたはず。そうはいっても筆まめで、お休みになる暇もないのではと案じている。

 以前、洋詩恵さんから「私たち女性同士、戦友よね」と言われたのが強く心に残っている。男性には、なかなか分かるまい。まるで戦火をかいくぐってきた同志のような気持ちで、褒めてもらったようで、胸が熱くなった。

 2月下旬、NPOの仲間たち8人で古窯を訪ねた。珍しく洋装で洋詩恵さんが出迎えてくれた。黒留袖のような漆黒のローブ様式で、胸元と袖口には桜の刺しゅうがほどこされている。シャネルのプルミエールが品格を物語っていた。

 洋詩恵さんに続いて私たちを笑顔で出迎えてくれたのが、初代女将の幸子さんだった。本紙でもたびたび触れてきたが、かつて所属したJTWO日本旅行作家協会の入会で、推薦してくださったご恩がある。かつて銀座7丁目の「ぎんざ 古窯」に立たれていたときのことを思い出した。あれから四半世紀が過ぎようとしている。その幸子さんが御年97歳と聞いて驚いた。ちっともお変わりがない。佐藤家に嫁いでからの半生を語られる表情は、いきいきとしていた。「細うで繁盛記」。そのテレビドラマのモデルにもなった当人から、古窯の歴史を聞くことができた。

 2024年12月にリニューアルオープンした「古窯スイート」に泊まった。蔵王連峰をパノラマで望める豪華な和洋室で、半露天風呂とサウナが付き、大画面でVODを堪能できるモダンなつくりだ。暮れなずむ上山の街の向こうには、ナイター営業のスキー場の光が見てとれた。Dimplex(ディンプレックス)製暖炉の“ゆらぎ”にも癒やされた。NIPPON―NO―YADOが進化しているのを実感した。

 ちなみに古窯の名は、敷地内に奈良朝の窯跡が発掘されたことに由来する。コト消費が叫ばれる以前から、楽焼(らくやき)の絵付け体験で遠来の客を愉しませてきた。館内の楽焼回廊には、著名人の作品がずらりと並んでいて見ごたえがある。

 夕食のあと、素焼きの皿と顔料を用意いただき、私たちも記念の1枚を焼いてもらうことにした。大皿の寄せ書きだから筆致もバラバラで、何とも面白い作品になった。夜のうちに焼き上げて、翌朝には持ち帰ることができる。

 幸子さんにはご長寿を、洋詩恵さんにはさらなる美と自由を、そして奈美さんには幸運を、もたらしてくれるよう祈念する。

 次回は、古窯が再生した山形あつみ温泉「萬国屋」を訪ねようと、仲間たちと約束した。今から楽しみだ。

(観光ジャーナリスト・淑徳大学経営学部観光経営学科教授 千葉千枝子)

 
 
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