【私の視点 観光羅針盤 514】静かな有事と地方の未来 石森秀三


私の視点 観光羅針盤

 米国とイスラエルが共同作戦でイランを攻撃し、ハメネイ最高指導者を殺害して中東有事が現実化した。ペルシャ湾の出入り口ホルムズ海峡は世界の海上石油輸送の約4分の1を支える要衝であり、中東有事は原油価格高騰を誘発し、世界経済に大きな打撃を与える。特に日本は原油の9割以上を中東に依存しており、ガソリン価格上昇だけでなく、さまざまな生活物資の価格高騰につながり、スタグフレーション(景気停滞と物価高の同時進行)による最悪の不況が危惧されている。

 高市首相は「日本列島を、強く豊かに」することに全身全霊をかけ、日本の総合的な国力(外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力、人材力)を徹底的に強くしていくと国会で宣言した。その一方で少子化・人口減少は日本の活力をむしばんでいく「静かな有事」と位置付け、旧来通りの諸対策の提示にとどまっている。爆発的な有事(戦争や大災害)とは異なり、日本の急速な少子高齢化と人口減少は確実に日本の活力を奪っていくために、識者たちは「静かな有事」と名付けた。

 2014年に民間団体の日本創生会議が40年までに若年女性が5割以上減る自治体896を「消滅可能性都市」と位置付け、40年に人口規模が1万人を切る自治体523を消滅可能性が高い、という予測を公表し、物議をかもした。それに対して当時の安倍政権は地方創生政策を旗上げし、14年に「まち・ひと・しごと創生法」を制定した。その目的は深刻な少子高齢化と東京一極集中を是正し、地方の活性化(地方創生)を図ることだった。

 そのため(1)魅力ある地域づくり(まち)(2)多様な人材の確保(ひと)(3)魅力ある就業機会の創出(しごと)―が主要目的とされた。内閣に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、国が「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、地方公共団体が地方版の総合戦略を策定。その上で政府は10年間にわたって、巨額の税金を投入してきたが、少子高齢化と東京一極集中に歯止めが掛かっていない。

 石破茂前首相はAIの活用や稼ぐ力の強化に重点を置いた「地方創生2.0」を打ち出したが、高市首相は従来の「地方創生」という枠組みを「地域未来戦略」へと衣替えしている。その目的は、(1)地域ごとの戦略産業クラスター形成(地方に大規模な投資を呼び込む、必要なインフラ整備、世界をリードする技術・ビジネスの創出)(2)地場産業の付加価値向上と販路開拓―を強力に支援。要するに国主導で地域未来交付金を活用して地方ごとの産業拠点づくりを行い、地域経済の成長を図る政策だ。

 高市首相は先日の施政方針演説での「とにかく成長のスイッチを押して、押して、押して、押して、押してまいります」という言明に象徴されるように「経済成長」志向が強烈であり、しかも政府主導による「国家戦略投資」を重視している。残念ながら、観光は17の戦略分野に組み込まれていないが、「地域未来戦略」についてはなんらかの形で観光事業が存在意義を発揮できるように観光業界として最大限に尽力すべきだ。

 高市政権の下での観光立国実現は容易ではないが、各地域における民産官学の粘り強く聡明な協働の積み重ねは地域観光の未来のために必要不可欠である。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
 
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