【観光立国・その夢と現実 72】私の人生訓⑧ 小原健史


 長崎県のオランダ村を創業した神近義邦氏と会うたびに私のテーマパーク事業への憧憬(しょうけい)は強くなり、嬉野温泉にテーマパークを造るならば史実に基づき“長崎街道”の再現をとの考えに行きつくのに時間は要しなかった。また、その建設資金はメイン行もサブ行も「何かやらないか! その資金は必ず融資する!」と言うから苦労はない。1985年からの数年間はいまだかつて経験したことのない金融大緩和の時代で、事業のアイデアさえあれば資金調達はすぐに可能であった。

 わが社の既存の親和銀行と日債銀に相談したところ一発で融資が決定し、日経新聞の九州版に「嬉野温泉・和多屋別荘が江戸時代型のテーマパーク事業を計画」と発表した途端、今まで縁も所縁もなかった銀行から「借入要請」の電話の嵐が吹きすさんだ。何と天下の日本興業銀行やメガバンクまで「融資をするから、うちからも借りてくれ!」と何度も要請があるものの、こちらは資金は確保できているので丁重に断る。

 何度目かの電話で「銀行の手形を送るから社印を打って返送して下さい。その金額を即日融資します!」と言うが、まさかと思いながら指示通りにすると数日後に数億円の資金が振り込まれてきた。これは事実である。しかも無担保である。

 現代の経営者にはにわかに信じられないであろうが、そのような事情の中、私の新規事業の借入金の金額は当初25億円の計画が開業時には50億円に膨らんでいて、まさにバブル経済の一端が私の肥前夢街道の事業でも如実に表れた。

 肥前夢街道の事業は入場者が初年度は100万人、2年目は80万人、3年目は60万人と1年ごとに右肩下がりになり、10年後に破綻した。バブル経済で泡まみれになり、資金をいくらでも提供する金融機関よりもカネを借りてやる経営者が偉いような、講演依頼が年間100回近くになった口減らず者が天下を取ったような錯覚に陥る、誠に変な時代であった。 

 ここから真っ逆さまに落ちていく私の40歳代が始まる。この時の人生訓は【借入が簡単な時はカネを借りるな。借入が苦しい時ほど、そのカネは生きる】であろうか!

 この当時はわが国の各地で本業以外の事業が乱立した。いわくゴルフ場やテーマパークや海外のシンボリックな不動産への投資などが乱立し、それらの事業はバブル経済が崩壊すると例外なく破綻した。そして、後日“失われた20年”とか“30年”とか言われるデフレ経済に突入する。 

 これらの事業の破綻は、事業運営の不都合、つまり売上高の減少とか費用の増大が要因で破綻したわけではない。では何が真の原因か? その答えは、乱脈的な融資の担保となった土地の価格のすさまじい下落である。

 例えば、地方の坪単価10万円の土地が、バブル経済で一気に10倍の坪100万円になり、千坪で10億円である。通常はその70%が融資限度であるが、100%融資する。中には120%の融資もあったという。金融機関の融資の攻勢を受けて10億円借り入れて本業以外に投資し10年後に破綻、借入金は10億円残るが担保の価値は最盛期の1割の1億円しかないから、金融機関もいきなり回収に姿勢を一転し、この事業は担保不足で連帯保証した本業までが同時に破綻する。こんな事例が続出した。 

 バブル崩壊後のデフレが数十年も続いたのは、この時代の乱脈経済の実体験をした者が事業の規模の大小を問わずトップにいたからで、二度とバブルに踊らないぞ!との消極的な精神が勇猛果敢な経営者の姿を想像させなかったのではないだろうか?

     (元全旅連会長)

 
 
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