石田氏
デザインによる食体験設計を
私は食を通じた地域の魅力づくりをライフワークとし、特に木曽路と熊野古道の紀伊路をフィールドとしている。2025年の訪日外国人客数が4千万人を上回ったことが発表されたが、中山道や熊野古道にあふれかえるインバウンドと接し、その人数の多さと地方への関心・期待の高さを日々実感している。
概してインバウンドは来日回数が多くなるほど地方を訪問し、彼らのうち「より広く日本を体験したい」層は、地方での印象に残る体験を期待している。ミシュランガイドに代表される価値観である「旅の目的地としての食」を求めて地方を訪れる海外フーディーたちも存在している。
もちろん地方の飲食・宿泊事業者はこれらの期待に応えるべく取り組んでいるが、地方を訪れるインバウンドが今特にどのような価値観を重視しているのか、私の実感をお伝えしたい。
木曽地方の体験型ホテル「Zenagi」で提供される料理の食材は地元のものであるが、地域を徹底的に知り、地元のプレーヤーとともに食体験を創造することで新たなストーリーを作り出している。例えば、木曽川流域の地質と水質がどのように食材に反映しているのか。地域の人々は歴史的に食材をどのように生かしてきたか。これらを深く理解し、食材の生産者との生身のやり取りを通してどのようにして料理が生まれたか等を伝えることで、ゲストに驚きと喜びを与えている。
また、熊野古道でかつて最も往来が多かった紀伊路では、旅人へ提供する食体験を開発している。このプロジェクトでは大阪から熊野に至る250キロメートルを10日以上かけて歩く唯一無二の旅体験を制作しているのだが、そこでの食が忘れられない体験となるべく日々検討と実践を重ねている。
私は、唯一無二の食体験を設計・実行するに当たって事業者の方々が導入していくべきは、デザインによる体験価値づくりではないかと考えている。つまり、デザイナーが一つの体験を五感刺激とストーリーテリングを組み合わせて設計し、料理人やサービスパーソンは設計をパフォーマーとして具現化するといった発想である。
最後に、食への取り組みがエシカル、リジェネラティブな取り組みを実践できているかがインバウンドを引き付ける要因になり始めていると実感している。私はソムリエの経験を生かし、「季節性」と「地域性」を表現できる「森林カクテル」と名付けた飲料体験を提供し始めた。森林の山野草がラグジュアリーな価値を生み出し、利益が森林に還元される試みだ。このようなリジェネラティブな食体験につながる資源は必ずある。地域で見つめ直してみてはどうだろうか。

石田氏




