【震災復興特集】旅館・ホテルがいま行うべき備え 東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センター客員教授 松尾一郎氏に聞く


松尾一郎氏

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 東日本大震災、能登半島地震と、国内で大規模災害が毎年のように発生している。千年サイクルの災害が現代に発生しているともいわれる中、観光事業者はどのような備えをすべきか。「タイムライン防災」の必要性を訴える東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターの松尾一郎客員教授に、旅館・ホテルをはじめ観光業界が取り組むべき防災対策について話を伺った。

 ――国内で大規模災害が多発している。

 千年サイクルの災害が、今まさに起きている。東日本大震災は、発生の1142年前、西暦869年の貞観地震とほぼ同じパターンで起きている。津波の被害エリアもほぼ同じだった。

 2年前の能登半島地震も同様で、同じ規模の地震が今から約千年前に起きている。

 次に備えるべき災害は南海トラフ地震だ。旅館・ホテルや観光事業者は、起きる前に宿泊客や観光客の命を守る備えをする必要がある。

 ――そのための対策として「タイムライン防災」を提唱されているが、具体的にどのようなものか。

 タイムラインとは、さまざまな災害に対する防災計画を時系列で策定したものだ。私はアメリカで提唱されたこの考え方に基づいて、日本なりのタイムライン防災を考えてきた。例えば台風。台風は日本に来るおよそ1週間前に発生するという前兆現象があるため、被害が想定される3日前、2日前、前日に、誰が、何をするかということがあらかじめ決められる。

 地震は突発災害で、前兆現象がなく、いきなり起きる。ただ、どれだけの規模のものが起きて、被害がどうなるかという想定を行政が出している。それに基づいての備えはあらかじめ決められる。

 旅館・ホテルであれば、建物の耐震化や、ハザードマップの設置、ヘルメットの配備といった平時の対策。そして発生した際の身を守る行動。発生した後の宿泊客へのサポート。これらをあらかじめ決めた防災行動計画を施設ごとに作る必要がある。

 ――計画は施設ごとに作成する必要があるか。

 フロアの構成やアプローチなど、施設によって建物の構造が違うし、耐震化の状況も違う。そのため、施設ごとに作らざるを得ない。

 立地の違いもある。地震が起きた際に、揺れによる被害だけが想定される地域と、沿岸部など津波の被害が予想される地域とでは当然対策が異なる。

 どのくらいの地震が起きたらどのくらいの被害が出るか、行政がハザードマップで示したり、被害想定を出したりしており、それぞれの施設である程度の検討はできる。

 ――計画をどのように作ればいいか。

 モデルとなる旅館・ホテルが専門家のアドバイスのもと作成し、これをひな形として、他の旅館・ホテルに波及させることができる。

 ――中小零細の旅館・ホテルは、計画作成などでも難しいところがある。

 行政や旅館団体などが連携、サポートして、大規模施設と中小施設それぞれについて、モデルケースを作ることが考えられる。

 ――旅館・ホテルの具体的な備えについて。

 道路が使えなくなった場合は、宿泊客はすぐ自宅へ戻れない。旅館・ホテルが数日間、面倒を見る必要がある。宿泊客の命を守る備蓄が必要だ。

 ――備蓄はどの程度必要か。

 地域によって異なる。3日や5日分あればいいともいわれるが、それでも足りないところがある。例えば半島の先端といったところは、すぐに救援が駆けつけることは難しい。鉄道が止まり、道路は寸断される。陸路で支援に行けず、ヘリしか来られない状況になる。

 そうなると3日、5日では持たない。私は2週間程度の備蓄が必要だと考える。水、非常食、カセットコンロといった備蓄品を、場所によっては2週間分用意する。半島の先端のような孤立しそうな地域は、特にそのような対策が必要だ。

 ――食料以外で特に必要な備えは。

 一つが着るものだ。非常時には停電する。それは冬場に起きるかもしれない。寒い状況の中では暖を取れるものが必要だ。旅館・ホテルには着るものや布団は十分あるだろうが、電気がない中で暖を取る方法として、ポータブル電源装置やソーラー発電なども必要だろう。

 私は常に笛、ライト、うがい薬、伸縮系のコップを持ち歩いている。笛は意外と安く、旅館・ホテルの常備品として部屋ごとに配備してもいい。懐中電灯はよく部屋にあるが、さらに先ほど述べたハザードマップやヘルメット、転ばないためのスリッパの代わりの運動靴。これらを客室に置いてほしい。

 ――ご自身が宿を選ぶ際、特に着目している点は。

 「免震ホテル」など、耐震化されているところを極力選ぶ。ただ、ホームページでしっかり書いているところとそうでないところがある。ホテルはよく書いているが、旅館はあまり見ない。耐震化をもっとアピールすべきだ。

 海外の人が日本の宿を選ぶ時の条件としても、英語、韓国語、中国語など、多言語でのこれらの案内や、客室への安全対策の装備があることが、これからの時代、必要になってくるのではないか。

 ――旅館・ホテルは「2次避難所」としての役割も期待されている。

 最近の震災でも避難所の環境が悪く、関連死につながったケースがある。食事もトイレも満足にないような環境で3、4日過ごすようなことになると、高齢者はアウトだ。

 そこで行政は被災者の2次避難場所として、被害のない近隣の、あるいは遠隔地の、環境がいいところに泊まっていただくという取り組みをしている。

 全国の旅館・ホテルに、被災者の受け入れについて協力していただきたい。例えば首都直下地震が起きた場合、群馬の温泉旅館が東京の被災者を受け入れるなど。各地で行政と旅館・ホテル組合との協定が結ばれているようだが、多くの旅館・ホテルに被災者受け入れについて手を上げていただきたい。

松尾一郎氏
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