「まさか休みを取るなんて考えてないよな」。古巣の新聞社には永年勤続休暇制度があった。勤続10年、20年、30年ごとにまとまった休暇を取ることができる。10年目は忙しい取材部門に配属されていて、全くその気はなかった。20年目、中間管理職となり2週間の休暇を取れることになった。ところが冒頭のまさかの発言は当時の先輩から発せられたものだった。
先進国の中で、日本は有給休暇の日数が少ない。そのうえ有休取得率は最低の部類だ。自分がまとまった休みを取ったら、周囲に迷惑をかけるのではないか、同僚の負担を増やしてしまうんではないかとの思いが強いからだ。こんな職場環境だから、まとまった旅行などできるわけがない。2月28日の日本経済新聞に「Z世代が選ぶビジネスの謎習慣」ランキングが掲載された。その中で第2位が「有休申請時の『申し訳ありません』」だった。
ただ、筆者は突発の出来事が生じればキャンセルすれば良いと思い、ゴールデンウイークや夏休みは旅の予約をした。といっても、せいぜい2泊か3泊の小旅行だ。最近は様変わりして、若い人は休みの消化にためらいが少なくなっていると聞く。また企業側も有給を取得することを奨励している。
しかし、現状はやはり休暇が集中し、ゴールデンウイークやお盆、年末年始などは“民族大移動”とメディアが報じ、観光地や新幹線、飛行機の混雑ぶりを伝えている。そのため、予約が取りづらい、費用もかさむ、交通渋滞にぶつかるなど、リラックスを求めて出かけるのか、ストレスを被るためなのか分からない。
まとまった休暇期間である繁忙期だけに限らず、観光シーズンの週末も観光客が集中する。こうした事態に旅行業界が手をこまぬいているわけではない。その背景には、コロナ禍の時期は除き、インバウンド(訪日外国人観光客)が過去最高を更新し続けていることが挙げられる。
インバウンドは東京や大阪、京都などに集中している。京都などへの旅行需要が集中するオーバーツーリズムがたびたび取り上げられている。ただ、日本旅行業協会(JATA)によると、外国人観光客の地方への回遊も増えているという。観光庁も地方分散は後押ししているからだ。外国人観光客だけでなく、日本人の国内旅行も活発化している。
この結果、大都市のみならず、地方の観光地もいずれはオーバーツーリズム問題が浮上するのではないかとJATAは予測する。その切り札が休みの平準化であり、「企業や自治体、学校などを巻き込んだ社会問題として解決していく必要がある」と主張する。
その一助となると期待されるのが、2024年度からJATAが展開している「平日に泊まろう!」キャンペーンで、26年度も4月1日からスタートさせる。JATA加盟の旅行会社で1人1万円以上の平日泊を含む旅行商品の購入者に抽選で旅行クーポン券を贈る内容だ。
筆者は常勤職場を“卒業”しているので、繁忙期を避けて旅ができる。しかし、働き盛り世代にとっては、費用を投じて貴重な旅の機会を快適で楽しいものとするには、休みの平準化=平日旅が広がることが欠かせない。
(日本旅行作家協会常任理事、元旅行読売出版社社長)




