菅原真太郎(右)と、小川尊也氏
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)青年部で労務人材担当副部長を務める小川尊也氏(神奈川県・一の湯)と、青年部政策渉外担当副部長で宿泊業技能試験センター理事を務める菅原真太郎氏(大阪府・ホテルプラザオーサカ)に「宿泊業における人材確保と教育」をテーマに語っていただいた。(司会=本社編集長・森田淳)

菅原真太郎(右)と、小川尊也氏
スポットバイトの重要性増 間口を広げて採用計画を
――宿泊施設が抱える人材雇用、教育における課題について。特に最近、感じていることや、現場から聞く声は。
小川 長年課題に感じているのは、人手が足りないことはもちろんだが、教える側がうまく育っていないこと。当社でも解決しようとコロナ明けぐらいから取り組んで、今はだいぶ整ってきたのだが、なかなか難しい。
30代、40代ぐらいの熟練した作業者がいない、少ないことが課題と感じている。
雇用に関しても、なかなか定着しないのは、教える側の人材がいないところに直結しているのだと思う。
――経営者自身が教育を行うことは。
小川 施設の規模にもよる。社長が支配人のような形でオペレーションをしていれば教育もできるだろうが、現場は現場に任せているという場合は、経営者自身はタッチしないし、それはまちまちだ。
菅原 弊社もほぼ同じ状況だ。スタッフを採用しても、教育できる中間層がなかなかいないので、現場のOJT任せになってしまう。
外国人材に関しても、日本語も含めてどのように教育するかが課題となっている。
われわれ宿泊業は365日24時間営業しているので、人数を一定数集めて教育することもなかなか難しく、教育体制を整えることの難しさを感じている。
雇用に関しては、都市部と地方部で差があるが、とはいえわれわれ都市部(大阪市)でも優秀な人材を採用するのは難しいし、取り合いが加速している。
――状況は年々厳しくなっていると。
菅原 そう感じている。
――今、話に上がった雇用における地域間格差について。
小川 われわれは箱根で営業しているが、隣接する小田原や御殿場、三島などからこちらに来て、働いてもらうにはハードルが高く、パートでも時給を上げないと応募が来ない状況だ。
東京の隣の神奈川県でもそんな状況で、もっと地方はさらに厳しいのだろうと認識している。
この状況を打開するためにも、特定技能や育成就労の外国人採用を進める必要がある。
菅原 地方の仲間から人材採用について、外国人も含めて相当厳しいという話を聞く。海外で「ジョブフェア」「マッチングイベント」に参加し、現地の人材に内定を出しても、地方の施設ということで来てもらえなかったり、採用しても1年ぐらいで都市部に転職してしまったりという。外国人も地方より都市部で働きたいという思いがあるようだ。
――正規雇用、期間契約雇用、アルバイト・パートなど多種多様な働き方があるが、最近の雇用形態に関するトレンドは。
小川 業界の中で、スポットバイトの重要性が増している。
今の旅館・ホテルは「中抜け」が当たり前になっているが、そこを変えていかないと、若い人たちの採用もなかなか難しい。そこを是正するためにも、短時間のパートやスポットバイトの活用はすごく重要だ。
当社は「中抜け」の撲滅をと、さまざまなアクションをしているが、その中で朝食だけ、夕食だけ、清掃だけと、週1回、3~4時間でもいいからと、働いてくれるパートの採用に力を入れている。
菅原 弊社は朝食のスタッフが足りず、その部分でスポットバイトを採用している。ただ、それだけでは回らない部分もあり、間口を広げて採用計画を立てることが重要と感じている。
朝食のサポートなど、比較的単純な作業はスポットバイトに任せて、それ以外は外国人材を中心に、在留資格によってどの業務ができるかをうまく考えて、組み合わせることを意識して取り組んでいる。
英語で伝えることを徹底 口コミ点数増へキャンペーン
――インバウンドの増加により、外国人観光客への対応が必須となっている。宿泊施設における外国人への対応について。
小川 うちはコロナ前からインバウンド比率が高く、インバウンドへの向き合い方はある程度理解しているつもりだ。継続的に行っているのは、全てにおいて英語表記を行うこと。中国人が増えたから中国語、韓国人が増えたから韓国語ではなく、とにかく英語で伝えることを徹底している。
――英語ならほぼ全ての国の人が理解できると。
小川 いろいろやらせていただいたが、それ一本に絞った方がお客さまに伝わる割合が高くなると実感したので、うちではそのようにしている。
――外国人スタッフの顧客対応は。
小川 当社は特定技能の人材が約25人、それぞれの宿に3人ずつぐらいいるが、みんな英語がペラペラで、外国のお客さまへの対応に関しても、すごく戦力になっている。お客さまにとってもコミュニケーションをしっかり取れる従業員が毎日いることは心強いと思う。
菅原 弊社は多い時で半分以上が海外からのお客さま。インバウンド比率が高いホテルで、かなり前から外国人のスタッフを採用し、ゲストに対応をしてきた。
最近感じているのは、お客さまの満足度向上に外国人スタッフがすごく寄与していること。今、口コミの点数を上げる社内キャンペーンを行っている。スタッフが積極的にお客さまとコミュニケーションを取り、口コミを回収しているのだが、点数の上位に来るスタッフのほとんどが外国人だ。みんな自分たちの役割を認識して、いい働きをしている。
――外国人客への対応について、課題として感じていることは。
菅原 他の宿から聞くのは、やはり言葉の壁で、どう解決するかを悩んでいらっしゃる。
その点については、外国人の人材を採用したり、あるいは今、優れた翻訳機能を持つ機械も出始めているので、それを採用したりするとか。さまざまなことが考えられると思う。
――お2人はこれまで、全旅連活動として、特定技能の外国人材の雇用促進に取り組まれている。これまでの活動を振り返ると。
小川 われわれは関わって約3年になる。もちろん、その前から特定技能の制度は存在していて、諸先輩方が試験などの制度を確立していたが、さらにブラッシュアップする必要があると、われわれがタスクチームとして参加した。
その中で、特定技能の資格試験の方式を変えて、世界中どこからでもコンピューターで試験が受けられる「CBT方式」にした。
さらに海外に出向いて日本の宿泊業の魅力や特定技能の試験制度を説明する「ジョブフェア」など、リアルの会合を設けたりした。
菅原 試験を受けやすくする体制の構築と、日本の宿泊業で働きたいと思ってもらえる外国人を増やすこと。これらの点に注力して今、取り組んでいるところだ。
――海外での「ジョブフェア」に参加して感じたことは。
菅原 現地の学生らと実際に話してみると、みんな意欲があり、われわれも「このような気持ちにならなければ」と毎回来るたびに感じている。企業と学生とのマッチングで実際に内定を出しているところもあり、このような地道な活動はさらに行うべきだと思う。
――特定技能人材の宿泊施設における雇用状況と課題について。
菅原 特定技能1号が千人を超え、ここ数年の成果が徐々に出てきたという感じだ。
ただ、外食など、他の産業に比べると、まだかなり少ない。制度の初期に試験が受けにくかったりと、少し出遅れたところがあった。他産業に比べて、宿泊業は一定の語学力やスキルが求められ、その点も他産業とは状況が異なる。
宿泊業に求められる語学やスキルについて、事前の教育体制をどう構築するかも課題の一つといえる。
小川 「技人国」(技術・人文知識・国際業務)の在留資格を持つ外国人材を採用して、フロント業務などはよいのだが、グレーなところでオペレーションを回すことも一部であったようだ。これは特定技能の人材が今一つ増えない要因ともいえる。
――外国人材は在留資格によって行ってよい業務といけない業務がある。
小川 厳罰を伴うので、これらの情報についてはわれわれ業界団体の労務に関わる人間は、同業の皆さまに対し、広く理解を深める取り組みを行う必要がある。
特定技能については、採用コストが高いことも弊害の一つだ。イニシャルコストに加え、登録支援機関にかかるランニングコストも高く、採用をする上でのネックになっている。そこを業界で内製化するなども考えていかねばならない。
外国人採用の有用性を周知 外国人から選ばれる業界に
――外国人材の受け入れ拡大に向けて、さらに。
小川 外国人採用の有用性を、業界に向けてさらに周知する必要があると強く感じている。
日本人に対しても同じだが、「ここで働けば明るい未来が待っている」と、働く人に理解をしてもらわなければならない。そのためにはその裏付けとなる経営の数字を出し、情報提供することが必要だ。
菅原 全旅連としては、特定技能人材の採用を活性化させるマッチングプラットフォームと、先ほど述べた事前の教育体制について、まだ検討段階だが、構築していこうと考えている。
――労働人口の減少が続く日本の社会において、それぞれの宿泊施設が考えておかねばならないことは。
小川 給与や年間休日の体系をしっかり確立し、自身のキャリア形成がしっかりできるというところを従業員にはっきり示せば、人手不足に陥ることはないと信じている。
われわれはこれらの実現に向けてどうアクションを起こすのか。具体策を全旅連としてもどんどん提供して、同業者の皆さんとともに課題解決をしていきたい。
菅原 事業者の意識改革が必要だ。外国人を単なる人手不足の穴埋めで、安い賃金で採用すればいい、という意識がまだある。
外国人から見ると、日本で働くことがファーストチョイスではなくなってきている。われわれはしっかりと受け止めて、働き手から選ばれる業界になる必要がある。




