前回までのコラムでは、宿の未来を切り拓くグランド・アーキテクト(統括設計者)の役割について考えてきた。情報の波にのまれ、断片的なつまみ食いを繰り返す旅館・ホテル経営から卒業し、全部門を貫く一つの設計図を描き、それを最後までやり遂げる。この泥臭いながらも共通の価値観に根差した取り組みこそが、同じ築年数でも単に古びていく宿と、時とともに魅力が増す宿の決定的な差を生むのである。
古い宿泊施設を訪ねると、築年数に応じて建築や内装の仕様が驚くほど似通っていることに気づく。建設当時の流行をそのまま取り入れた証だろう。しかし、その当時のつまみ食いの結果、地域性や自館の個性が薄れ、全国どこにでもあるような特徴のない宿が量産されてしまった。建築から数十年たった今、いざ宿を磨き直そうとしても、かつてのつまみ食いの積み重ねが影響し、自館本来の個性がどこにあるのか見えにくくなっている。良かれと思って取り入れてきた過去の判断が、魅力を高めようとする現在の行動を、難しくさせているのが現実だ。
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