コロナ禍は終わっていない 被害受けた地方観光業者が声を上げる いわさきグループ岩崎芳太郎会長に聞く


いわさきグループ会長 岩崎芳太郎氏

 いわさきグループ会長の岩崎芳太郎氏が、日本年金機構を相手取り「換価の猶予期間延長不許可決定の取り消し」を求める訴訟を今年1月末に提起した。コロナ禍によって甚大な経済的損失を被った地方の観光業者を代表し、国のコロナ対策に不備があったと指摘する岩崎氏に、コロナ禍の影響や社会保険料・消費税の猶予問題、日本の観光業界の課題について聞いた。

100億円の損失、それでも倒産を免れた企業の社会的責任

 ――いわさきグループは従業員数2千人を擁する鹿児島を代表する観光・交通企業グループで、岩崎会長は鹿児島商工会議所の会頭もされています。貴グループのコロナ禍中の状況と現在の状況を教えていただけますか?いわさきホテルの稼働率、インバウンド客比率は、いまどのくらいですか?

 「コロナの3年間で、うちは100億円の損失を出しました。100億円というのは、だいたいその3年間のキャッシュフローが一定額あって、それが得られたはずのキャッシュフローと実際のマイナスキャッシュフローを合わせた額です。財務的に100億円消えたということですね。よく潰れませんでした」

 そう語る岩崎氏によると、岩崎産業をはじめとするいわさきグループ約30社は、コロナ禍で甚大な経済的損失を被ったという。自身が資産売却をここ数年ずっと行い、「100億円の軍資金」を貯めていたことで倒産を免れたが、本来は新しい経済環境に対応するためのものだった。

 現在の状況について、岩崎氏は「コロナ以降、国内は戻っていません」と断言する。特に指宿については、「時代に合っていないから完全に負け組です。」と厳しい見方を示した。指宿いわさきホテルは1956年の開業以来、70年間営業を続けてきたが、耐震基準対応もあり、2025年6月1日のチェックアウトをもって数年間の休館に入った。

 インバウンド客比率については、国際線の直行便もまだ完全に回復しておらず「10%も切っています」と説明。一方、屋久島については「そこそこ増えてきています」としながらも「絶対数が少ない」と指摘した。

 

 ――23年11月にダイヤモンド社から発売された著書「地方一揆」では、日本国が実施したコロナ禍対策について、様々な問題点を指摘されていますね。何が一番問題だったのでしょうか?

 「コロナ対策の経済政策に関しては、観光交通事業者に関してやるべきことをやっていないということです。旅行するなとか、移動するなと言ったら、当然大損害を事業者が被るわけです。それが全く自分たちのせいじゃないのに、何の救済もない」

 岩崎氏はコロナ禍での諸税および社会保険料の国民負担について「最初の1年のみ特別猶予として納付を強制されなかったが、3年以上経過して、全ての税及び社会保険料について納付を強制された」と指摘。「営業収入が激減し実質的にキャッシュフローがマイナスとなっている事業者にとっては支払原資がないのに自己資金もしくは借入金でのキャッシュアウトを強要されている」と批判する。

 さらに、GoToキャンペーンについても「政府が主導した施策にもかかわらず、国民に対して医師会、自治体など各方面から帰省や旅行の自粛が求められた」と指摘。「こんな事態になっても、損害を被った事業者に対して政府からの補償はなく、多くの事業者が廃業・倒産に追い込まれた」と語気を強めた。

 「本来なら、この3年間分は10年、20年という長期分割納付等の抜本的対応を国は講ずるべきだった。今となっては事業者のほとんどが、3年間全ての税や社会保険料について納付済であることを考慮して、政府系金融機関からもしくは政府保証による民間金融機関から国民負担分の原資を事後的に貸し付けることで事業者の悪化した財務状態を改善する必要がある」と岩崎氏は主張する。

 

 ――「地方一揆」では、日本の劣化、東京と地方の格差を特に問題視されていますね。

 「日本の劣化の原因は中央集権官僚国家という構造的な問題にあると思います。民主主義政治において富の再配分は政府の役割ですが、実態は官僚組織が担っています。構造改革と言いながら、その仕組みの中に新自由主義やグローバリズムの価値観が加わったことで、逆に官僚の支配構造が強化されて割りを食ってきたのが地方です」

 そう語る岩崎氏は、「構造改革や規制緩和など日本経済を衰退させる施策がなぜ、これほど長く続けられているのか。それは日本人が過去を顧みない、つまり検証しないからではないでしょうか」と問題提起する。

 特に地方の観光業について「今、どこの地方自治体も稼ぐことに躍起になっていますが、それは地元企業が儲からなければ意味がありません。その点、都市部は多くの企業から税金を徴収できるので財政が潤うに決まっています」と説明。「都市部が富めば地方の中小企業にも富が波及し、国全体が豊かになると言われていたけれど、現実は地方には何も波及してきませんでした。地方の実情を理解せずに生産性向上、イノベーションやDXの推進を促され、都市部と同じように賃上げするように迫られます」と地方と都市部の格差について指摘した。

 

 ――観光産業を核とした「地方創生」が持論でいらっしゃいますね。観光庁の国策ではそうなっているとは思うのですが、いま一体何が足りていないのでしょうか?

 「観光業は、実は日本の産業分類の中に入っていないのです。私はかねがね『士農工商観光』と言ってきたのですが、観光庁ができ、アベノミクスが掲げた地方創生で国が観光に力を入れるようになってインバウンドが増え、ようやく産業として認められたと思ったものです」

 しかし、「コロナ禍で激減したインバウンド消費がV字回復したといわれているけれど、それは都市部の話であり、地方には、まだお客が完全に戻っておらず、当社のホテルでもコロナ前の6割程度です」と地域格差を指摘する。

 観光産業の役割について岩崎氏は「特に鹿児島は第二次産業が脆弱で、第一次産業と第三次産業で何とかやっている地域です。日本にはそんな地域は多く存在します。そして、その地域で多くの人が生計を立てるために観光関連の事業を行っています」と説明。「多くの事業者の規模は小さく、事業というより生業(なりわい)と言ったほうが適切です。それでも事業規模に関係なく、地域の観光事業者の生業が、その地域の経済を支えています」と地方における観光産業の重要性を強調した。

 岩崎氏は「観光産業従事者は社会的に必要な事業を生業にしているとの自覚を持つべき」とし、「私は日本に残されたわずかな強みは、日本人の勤労の精神だと思っています。しかし、近年の働き方改革によって働くことが美徳ではなくなりました」と危惧する。「観光産業を生産性や効率性だけで測る発想も我慢がなりません」と語った。

 観光業界の課題として人材不足も挙げた。「地方の夜は寂しいものですよ」「鹿児島は人手不足ですからグランドハンドリングの人間が日本中の空港でもいませんでしたけど、鹿児島は全然いなくて飛行機の運行が出来なかった」と具体例を示しながら、我が社も「基本的には新卒で4月に採用するというものは当然やりますよ。それじゃ全然集まらないですから、新卒でもうちは通年採用です」と説明。「当然、毎日全ての事業所で職安には求人出しています。管理職もひっくるめてね。それとは別に、リクナビ、マイナビ、その他そういうところでも募集しています。それで何とか集めていますけど、それでも足りません」と人材確保の苦労を語った。

 

 ――社会保険庁(日本年金機構)を相手取って、訴訟を起こされたと伺いました。どのような内容ですか?

 「いわさきグループは、国(処分行政庁は日本年金機構理事長)に対し、コロナ禍での社会保険料の支払猶予不許可を不服とする行政処分の取消訴訟の提起です」と岩崎氏。

 訴訟の概要によると、岩崎産業他いわさきグループ約30社は、2020年4月のコロナ特例法に基づき社会保険料の猶予を受けたが、特例法は1年限りのものであり、2021年度以降は、1部は支払いながら、普通猶予(3か月毎の申請)を繰り返し、2023年3月末迄の3年間総額約61億円のうちの猶予分残高に関し、2023年5月に分割支払計画を提出したが、認められず中旬に年金機構より取り消しの通知があり、6月末に猶予分、約37億円を一括支払ったという。(ちなみに消費税猶予分約6.9億円も4月から7月の間で支払った)

 「社会保険料を強制的に取り立てる裏付けは租税徴収法という法律なのです。でもそれは税金じゃないのに国税徴収法・通則法を適用して問答無用に取り立てるのはおかしい。最初の時には、消費税も1年目だけ特別猶予って立法して1年間は勘弁しているみたいな話です。両方ともね、2年目になって普通だったら2年目も特別猶予すべきですよね。払えない状況になったのはコロナ政策のせいだから」

 岩崎氏によると「この理不尽な税と保険料の取り立ては事業者の資金繰りを大変圧迫している」としたうえで、「いわゆる社保倒産が数多く発生している」という。また、同じく、国(行政処分庁は熊本国税局長)に対し、コロナ禍での消費税の支払い猶予不許可処分を不服とする行政処分の取消訴訟及び不当な行政手続に対しても提訴するとのことだ。

 「日本国の構造や性質を考えると、コロナ禍で露呈したのは日本の構造的問題と国家経営の欠如だ」と岩崎氏は語る。「私は今後の3年間が、日本にとって、鹿児島にとって非常に大事な時期だと思います。足元のことを一つひとつこなしながら、グローバリズム的な効率主義を続ける日本の体制や、東京一人勝ちのような状態で割を食っている地方を後押しできる仕組みを地道に築いていくしかありません」と今後の展望を語った。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

いわさきグループ会長 岩崎芳太郎氏

 
 
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