同じ築年数でありながら、時を経るほどに商品としての厚みが増していく宿と、ただ古びて見えるだけの宿がある。この決定的な差を分けるものは何か。設備更新の頻度でも、流行を取り入れるセンスでもない。最新の情報を自館の文脈で編集し、フロント・料飲・客室・管理といった主要部門を一つの設計図で連動させるグランドデザインを描けているかどうか。そして、それを組織として最後までやり切れるかどうかである。
この統括の力が欠けた宿は、改善の手数が増えるほど現場にゆがみが蓄積し、10年後、20年後の商品力に埋めがたい溝を作ってしまう。
かつて、このグランドデザインの勘所は、他館への修行によって受け継がれてきた。実家に戻る前の数年間、旅館・ホテルの後継者は、名門宿の現場に身を置き、組織の流儀や段取りを身体で覚えた。それは単なるノウハウの習得ではなく、宿という複雑な仕組みを全体で回す感覚を手に入れるための手段であった。
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