【専門紙誌5社共同企画】各紙誌の視点で見る「女性による地方創生」 観光経済新聞社 「帰る旅」に多くの女性 住民との交流で地域活性化


「帰る旅」を運営するメンバー、「さかとケ」のイベント参加者ら(後列左から3人目が井口氏)

 「これからの観光は今の延長線上でいいのか」。コロナ禍の最中、そんな問題意識が観光関係者の中で生まれた。そんな中でつくられたのが「帰る旅」プロジェクトだ。

 新潟、群馬、長野3県の7市町村(魚沼市、南魚沼市、十日町市、湯沢町、津南町、みなかみ町、栄村)の観光関係者らによる広域観光推進組織「一般社団法人雪国観光圏」と、リクルートの調査研究機関「じゃらんリサーチセンター」が共同で推進するプロジェクト。

 従来の「お客さまとして旅先を訪れ、接待を受けて、対価を支払う」という「行く旅」とは対照的に、「日常の延長線上でなじみの場所に行き、地域の取り組みに手を貸したり、住民と交流したりして、地域との関係性をさらに深めていく」という、新しい旅のスタイルだ。

 「行く旅」も「帰る旅」も、「交流人口」という点で変わりはないが、「帰る旅」は、地方への移住・定住をより促す効果があると、雪国観光圏代表理事で、新潟県内で2軒の宿を営む井口智裕氏は指摘する。

 「プロジェクトの趣旨は、観光客に地域の”仲間”になってもらい、最終的にその地域への移住・定住につなげること。何度も通っているうちに宿の主人や地域の人と仲良くなり、親戚づきあいのようなものが始まったりして、そこから移住・定住が実現する。そんな流れをつくりたい」。

 人口減少、少子高齢化が進む地方は一人でも多くの働き手を得たい。一方、都市部に住む人々の中には「日常ではない場所にも心のよりどころとなる場所をつくりたい」「さまざまな課題を抱える地方に何か貢献したい」、そんな意思や志を持つ人も少なくないだろう。このプロジェクトは、そんな2者をつなぐ役割を果たす。

 「帰る旅」プロジェクトの具体例として、前出の井口氏が経営する宿「古民家ホテルryugon(りゅうごん)」(新潟県南魚沼市坂戸)が取り組む「さかとケ」がある。

 さかとケ(坂戸は地区名、ケは家と日常「ケ」の意味)は、「帰る旅」プロジェクトの取り組みの一つとともに、ryugonの敷地内に設けた4室の宿泊棟の名称。2022年に始動、開設した。

 宿泊客を受け入れているが、ユニークなのが、1泊2日の間に宿の仕事を5時間手伝ってもらい、その代わり宿泊代を無料にするという仕組みだ。通常の旅館・ホテルのような代金の収受は一切発生しない。

 宿泊者は、労働時間以外はフリーで、周辺を散策したり、部屋で自分の趣味や仕事に没頭したり、近所の商店で買い物をして宿の共同キッチンで自炊をしたりと、思い思いに時を過ごせる。

 ryugonは250年前に造られた古民家を移築・改装した宿で、客室数はさかとケを含めて全38室。2024年には専用のプールやサウナ、露天風呂を備えたヴィラ2棟もオープンした。ヴィラの宿泊代は1人1泊およそ30万円。「ゼロ円から30万円までと、これだけ幅広い価格の宿は、ほかにないだろう(笑い)」(井口氏)。敷地内に木造土蔵造りの風情ある天然温泉の大浴場を備えており、さかとケの宿泊者も無料で利用できる。

 さかとケに宿泊するには事前のメンバー登録と予約が必要だが、井口氏によると、利用者は20~30代の女性が約5割と最も多い。

 「フリーランスで働く女性がリピーターとなり、毎月2~3回泊まりにいらっしゃったり、週末のみに訪れる会社員の方も多い」。

 滞在中は宿のスタッフと宿のイベントを企画したり、行きつけになった街の居酒屋で主人と意気投合したり。

 「男性よりも女性の方がコミュニケーション能力が高く、街の人との交流も積極的に行っているようだ。若い女性が話しかけてくるとみんな喜ぶし(笑い)、地域活性化につながっている」。

 宿の中でも宿泊者同士や、宿泊者と宿のスタッフとの深い人間関係が構築されることがある。「お金という要素をなくすことで、フラットな人間関係が構築される」と井口氏。

 「肩書を気にしがちな男性に比べ、それをあまり気にしない女性の方が、このコミュニティに参加しやすいのだろう」とも。

 さかとケの利用をきっかけにryugonに就職した女性社員がいる。来年度も1人の採用を予定しているという。

 (観光経済新聞)


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