【観光トレンド13】「異日常」が育む第2のふるさと 岡部純子


 約1年半前、本紙に「異日常」について寄稿させていただいた。あれから修士論文を完成させ、今年は日本健康心理学会と日本観光研究学会で発表した。「異日常」には科学的に裏付けられた心理的効果があることが示唆された。

 私は、JTB在籍30年の旅行業界経験を通じて、旅が人々の心に与える影響の大きさを目の当たりにしてきた。この影響を、ポジティブ心理学の分野から研究した。舞台は山形県肘折温泉。人口200人余りの小さな集落だが、私自身が心身ともに疲れていた時期に救われたのはこの地だった。

 「異日常」とは、テーマパークのような「非日常」ではない。「自分とは異なるライフスタイルや文化」に触れ、繰り返し訪れることで心理的健康を育む体験である。

 2024年7~10月の4カ月間、肘折温泉の宿泊者にインタビューとアンケート調査を実施した。心理学の理論では、旅行者のウェルビーイング(心身の健康)には「日常からの切り離し」「地域との親和性」「意味の発見」などの要素が重要とされている。また、「自律性(自分で決められる自由)」「関係性(人とのつながり)」「有能感(できる実感)」が満たされると幸福感が高まることも知られている。

 調査結果は明確だった。訪問回数5回以上のリピーターは、帰宅1カ月後も「他者からの自由」や「行動の自由」といった心理的効果が持続していた。一方、5回未満の人はこれらが低下した。つまり、5回目あたりから肘折温泉は「旅先」ではなく「第2の日常」として心に根づくということも立証できた。

 さらに分析から、「地域住民と交流したい」という動機を持つ人ほど、「受け入れられている」という感覚が強まることが統計的に証明された。地域住民との交流は、旅行者の自己肯定感を支える心理的基盤なのである。

 興味深いのは、「観光名所を見て回りたい」という動機が、かえって精神的安定を抑制していた点だ。「見て回る」受動的姿勢より、地域生活に「触れる」能動的姿勢の方が、心の健康にはより効果的であることが示された。

 本研究の成果が、観光庁が推奨する「第2のふるさとづくり」や「関係人口」創出の施策に対し、科学的知見として寄与できるよう、今後さらなる研究を進める予定だ。

 (くじらコミュニケーションズ代表・桜美林大学大学院修了<指導教員・石川利江教授>岡部純子)

 
 
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