佐野社長
コンサルタントのリョケン(佐野洋一社長)はこのほど、「令和8年 旅館の経営指針」を発表した。テーマは「リ・ポジショニング~新たな視点・新たな可能性」。ここでは、膨大な指針の中から一部を抜粋して紹介する。
個人化、インバウンド拡大、物価・人件費の上昇など、旅館・ホテルをめぐる市場環境は加速度的に変容している。人口減少の流れの中で、全体的に宿泊客数は停滞、宿泊単価の上昇傾向により売り上げが維持されているといった傾向がうかがえる。高単価化は宿泊施設にとって好ましい傾向ではあるが、「宿泊客の支持を得た結果として単価向上が図られているのか」を意識する必要がある。「なんとなくの高単価」に依存すれば、やがては、価格と評価との乖離(かいり)がもろさを露呈する。今必要なのは、時間の提供価値と獲得すべき支持をもう一度、定義し直すことだ。
リ・ポジショニングとは、文字通りポジショニングをし直すこと。また、座標軸そのものを変えて「勝てる軸」を選ぶ意味を含む。そこから新たな可能性を見つけ出し、「仮説」を立て、その実現を目指してもらうことを提言させていただく。
■リ・ポジショニング
リ・ポジショニングを行う理由は主に、それまでターゲットとしていた市場が変化して、自社の商品、ブランドの「立ち位置」としていたものが適切でなくなり、変える必要が生ずる場合がしばしばあるからだ。
「SWOT分析」(スウォット分析=自社の強み・弱みと、外部環境における機会・脅威を整理、分析するフレームワーク)をこれまで何度も推奨してきた。自社が置かれている状況を客観的に捉えることのできる最も普遍的な方法だ。この分析方法は、例えば数年前と今とでは、自社とそれをとりまく状況はかなり変わっているはずなので、ここでもう一度、SWOT分析を行うことを薦めたい。
■リ・ポジショニングの目的
自社の存在を高みから俯瞰(ふかん)し、客観的に捉え直す。そして、地域内での立ち位置を定め、競争優位を確保する。そして、ポジション仮説に基づき、戦略を立てる。
■リ・ポジショニングの方法(座標軸そのものを変える)
座標は通常、平面上に縦・横二つの次元で表される。平均もしくは基準をゼロのラインとし、それぞれプラスとマイナスによる四つの象限に分割される。
旅館・ホテルの場合、最もオーソドックスに用いられる座標軸の組み合わせは、「規模(客室数)×平均的な宿泊料金」だろうか。ただ、これによって分かるのは、例えば、「当館の価格帯が同等規模の他館と比べて高いか、安いか」といったことぐらいで、それ以上のことは分からない。規模も価格帯も、いわば、外から見える事実に過ぎず、それらにおいてどちらの方が高い位置にあるかを見るだけでは、競争力を評価することはできないし、そこからあまり戦略的な発想は出てこない。「何をどうしていくべきか?」という考えには進まない。
リ・ポジショニングというものを提言するもう一つの意図は、この座標軸そのものをいろいろに変えていくところにある。ポジショニングを単なる位置づけに終わらせず、積極的に戦略を練るためのツールとすることだ。
ポイントは、座標軸のうち一つを自館が優位に立とうとする分野、言い換えれば、自館にとって都合の良い価値分野に置いてみることだ。これと交わるもう一つの軸は、例えば価格帯でも良いかもしれない。そのうえで、現在の位置を「ポジショニング」↓仮説の位置を「リ・ポジショニング」としてみよう。
■イノベーションへ
現在のやり方や世間の常識にとらわれて、普通のことをやっているだけでは、現状から抜け出すことはなかなかできない。物価と人件費は引き続き上昇傾向にあり、金利も上がっていく局面にある。売り上げを維持するだけでは収益を保っていけないだろう。加えて建築費の高騰で、宿泊業界は存立要件を根底から考え直す必要に迫られている。漫然と今のまま続けていれば、いずれは先細りとなり、次第に体力が奪われていくことになる。そこから抜け出すには何らかの「イノベーション」が求められる。
イノベーションは、技術革新のようなものばかりを指すものではない。重要なのは「発想を変える」ことと、そこから「新たな価値を生み出す」ことにある。そしてその出発点となる「発想を変える」ための「リ・ポジショニング」は有効だと考えている。ただし、リ・ポジショニングによって得られた発想は、その時点ではまだ、「着想」に過ぎない。それだけでは、恐らく使い物にならないだろう。ここに、集中的な思考と工夫を積み重ねていって初めて、イノベーションというものが実現できる…。このことは言うまでもない。

佐野社長




