賃金と物価が上昇する好循環サイクルが定着し、日本銀行は2025年12月に政策金利を約30年ぶりの水準となる0.75%に引き上げた。同年10月には日経平均株価が初めて5万円台に到達するなど、日本経済再成長への道が開き始めた。指数関数的に性能が向上するAI(人工知能)の登場は業務のあり方を変え、活用の巧拙が競争力を左右する。全国銀行協会の半沢淳一会長(三菱UFJ銀行頭取)に銀行界の展望や課題などを聞いた。
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「歴史的な転換期」を実感
――26年の展望は。
「25年は私たちが経済・社会構造の歴史的な転換期にいることを実感した1年だった。最大のテーマは米国の関税政策への対応で自由貿易やサプライチェーンの最適立地を礎とした企業戦略は再考を迫られた。一方、国内経済は『失われた30年』からの脱却へ歩みを進めた。AIへの高い期待も加わり日経平均株価は5万円の大台をつけた。長期金利や為替相場を含め値動きも大きく、市場も適切な評価を探っている。政府は日本成長戦略本部で危機管理投資・成長投資として17の戦略分野に関し、今後、官民で投資計画を策定していく方針を示した。経済の『供給サイドの強化』が重要テーマと位置付けられた点を心強く感じている。横断的課題の一つに挙げられた『金融』の立場からも貢献したい。お客さまや日本経済が新たな発想や思いを持って変革に踏み出せる26年になるように力を尽くす」
――AIの実装が進んでいる。
「定型事務や調査業務の効率化だけでなく、業務に大きな変化をもたらし始めている。取引モニタリングをはじめ金融犯罪対応の高度化やチャットボットでの顧客対応など利活用が増え、今後さらにAIにより自動化される業務も相応に出てくるだろう」
――従業員の働き方も変わる。
「付加価値の高い新たな商品・サービスの提供に使える時間を生み出せる。これまで社内のキャリアチェンジには長期間の経験・知見の積み上げが不可欠だったが、今後は自律的なAIエージェントを活用することで異なる業務領域へ効率的に挑戦できるだろう。AIはキャリアの広がりを後押しするツールにもなる。現在、AIの倫理やリスクについては各行で対応され始めているが、活用時のルールを定めたりすることが利活用の大前提だ」
決済システムの「礎」構築
――企業価値担保権が26年5月に始まる。
「担保や経営者保証によらずに、法人の事業力を正しく理解する『目利き力』を高めていくきっかけとなるだろう。全銀協では25年9月に想定される事例などの情報発信を行い、会員行は融資実務や事務手続きの整備、活用戦略の策定などを進めている。金融庁とも情報交換を行い制度開始に向け個別行を後押ししたい」
――金融庁が地域金融力強化プランを策定した。
「地域金融機関は、地域経済の持続的な発展に欠かせない存在だ。その役割をこれまで以上に果たすための環境整備を進めているものとして前向きに受け止めている。単なる資金繰り支援にのみならず、企業の成長投資やM&A(合併・買収)、DX(デジタルトランスフォーメーション)支援、さまざまなステークホルダーと連携した街づくりへの参画などを通じ、地方創生への貢献が不可欠だ。経営基盤の強化には他の金融機関との連携や合併・経営統合のほか、非競争領域を中心とした業務の共同化も選択肢となる」
――国内決済システムの展望は。
「全銀ネットが資金決済システムの将来像を検討する『スタディグループ』を25年度に発足させた。既に9回開催し、全銀システムを中心とした資金決済システムの現状・課題などを取り上げた。10年後、20年後を見据え、ステーブルコインも含めた決済領域の新たな潮流を踏まえた対応についても、まさに議論を行っているところだ。将来システムの『礎』となるようにしっかりと進めたい」
――海外ではステーブルコインが普及し始めた。
「国内ではJPYC社が円建てステーブルコインの発行を開始したほか、メガバンクが参画する実証実験が金融庁のFinTech実証実験ハブの支援案件に採択された。金融庁の金融審議会において暗号資産の位置づけ、銀行本体・グループ会社における取り扱いの見直しが検討されてきた。官民連携で論点の整理を進め、安心・安全で利便性の高い、時代に即した金融インフラの実現を目指す」
積極的なチャレンジ期待
――金融犯罪対策の重要性が高まっている。
「特殊詐欺の手口は一層複雑化・巧妙化しており、その被害額・認知件数は急増している。手口の変化に応じて機敏に対策をアップデートし、取り組みを強化する必要があり、政府は25年に『総合対策2.0』を策定した。銀行関連の対策として、インターネットバンキングの初期利用限度額の設定や、金融機関同士の情報共有枠組みの創設、新たな捜査手法の導入検討などが追加された。現在官民一体となって対策を進めている」
――次世代の銀行員に期待することは。
「失敗を恐れず、何事にもスピード感を持ち、積極的にチャレンジしてもらいたい。AIをはじめ新技術やツールも次々と登場するなか、求められる知識・スキルが高度化・複雑化している状況だ。一人一人が〝プロフェッショナル〟として、自律的に課題を設定して今までになかった自由な発想、新たな切り口で対応することが非常に重要になってくる」
「AIが当たり前の時代だからこそ自ら考え、失敗を恐れずに果敢に挑戦することが行員自身の成長の糧になる。そうやって日々サービスを磨いていくことが、『この人の話を聞きたい』『この銀行だから信じてくれる』とお客さまから支持され『信頼と信用』につながっていく」


【記事提供:ニッキン】




