「クロスケの家」
「トトロ」がニセの受付を務めている、という設定の「三鷹の森ジブリ美術館」（東京都三鷹市）は国内外の観光客でにぎわう。米俳優のトム・クルーズが、新作映画の宣伝で来日した2025年5月にお忍びで訪れ、トトロの受付前で撮影した写真が公表されてもいる。そのため「トトロ」の発車メロディは、美術館の最寄り駅であるＪＲ三鷹駅（三鷹市）で、という意見も市民の間で根強くあったようだ。だがスタジオジブリが認可したのは西武所沢駅だった。付近に広がる狭山丘陵はトトロの象徴であり、地域に広がる里山を「トトロの森」として守り、次世代に引き継いでいこうというナショナル・トラストの運動が、映画公開から間もない1990年の「トトロのふるさと基金」創設から35年以上も続く歴史があるからだろう。
「基金」運動の拠点である「クロスケの家」（所沢市）＝写真＝は、所沢駅の先の小手指駅（同）からバスで20分ほど走った狭山丘陵の中にある。築120年の古民家で、敷地内にある名産の狭山茶の工場跡や井戸、蔵が敷地内にある国指定登録有形文化財だ。付近には茶畑とともに、基金で保全する「トトロの森」が点在し、狭山湖にも近い。売店にあるシャツや缶バッジなどのトトロ雑貨を購入すれば、トラスト運動への寄付に貢献できる。
ロンドンでは「となりのトトロ」を原作とする舞台”Ｎｙ Ｎｅｉｇｈｂｏｒ Ｔｏｔｏｒｏ”が2022年から上演されており、現在も劇場街ウエストエンドでロングラン公演が続いている。由緒あるロイヤル・シェイクスピア・カンパニー（ＲＳＣ）が、ジブリ音楽を手掛けてきた作曲家の久石譲氏をエグゼクティブ・プロデューサーに迎えて、原作を忠実に再現した。ところどころで日本語が挿入される。2023年には英国で権威ある演劇賞「オリビエ賞」で最優秀作品賞など6部門を受賞した。出演者がアジア人中心の舞台には、人種や性別、年代を問わない多くの観客が詰めかけているという。2024年6月に天皇・皇后両陛下が訪英された際には、舞台の特別パフォーマンス版が披露された。
国境を越えて人気を博す「トトロ」の普遍性とは何か。原作のアニメ映画の優しさと穏やかさ、空想とイマジネーション、心の純粋な登場人物たちが、ベストを尽くす姿が、観る人たちに響くから、といった指摘がある。舞台版の脚本を担当したトム・モートンスミス氏は「英国にも昔から都会の子どもたちが田舎で不思議な体験をする物語はある。『若草の祈り』『秘密の花園』『ナルニア国ものがたり』などがそうだし、『不思議の国のアリス』や『ピーター・パン』の要素もトトロにはある。宮崎監督が意識したのか偶然なのか、世界の民間伝承の共通性なのか分からないが、英国の観客にとってトトロのストーリーはよく理解できる」と中日新聞の取材に答えている。
※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」（世界文化社）、「駅メロものがたり」（交通新聞社新書）など。
「クロスケの家」
