11月中旬の深夜、あと10分ほどで日付が変わる午前0時直前に日本航空の安売りセールのサイトを立ち上げた。年明け早々、九州に旅する予定で、安く航空券を買おうと思ったからだ。格安航空(LCC)という手もあるが、成田空港まで行くのは時間がかかる。若い友人に教えられたこのセールを初めて利用し、お得に羽田空港から飛び立とうというつもりだった。
驚いたことに、セール開始前なのにすでにサイトにはアクセスが集中しているとの案内が出ていた。ただ、“予約の予約”をしておくと、後ほどメールでアクセスできる時刻を教えてくれるという。それから1時間半後にアクセスでき、1万円強で午前9時過ぎ羽田発、熊本行きの航空券を買うことができた。
日本航空に限らず、他の航空会社を含め、こうしたセールをしばしば利用するという友人はこう言った。「旅好きの仲間たちは、常にこうした航空券情報を交換し合っている。少しでも安く移動したいから」。
予約した便の変更が可能かどうかなどの条件にもよるが、同時期の最高値は4万円台だった。帰路の大分―羽田も安価で購入できたから、お得感は大きい。
若い人たちと話していると「旅行はしたいけど、経済的に大変だ」と、しばしば耳にする。そのため彼らはかなりの長距離でも夜行バスを利用し、旅費を節約している。好きなアイドルグループの公演を追っかけるいわゆる推し活を繰り返す女性たちは、交通費節約がもっと顕著だ。「移動を安くあげて、少しでもたくさんの推しのグッズを買いたい」と明かす。
海外に目を向ければ、好きな韓国のK―POPや韓流ドラマを追っかける推し活をしている女性たちは、実に賢く日本とソウルや釜山便の格安航空(LCC)に乗っている。片道1万円以下の便を探すのだ。
2025年版観光白書は、日本人の国内旅行市場全体は長期的には伸び悩みが続いていると報告している。延べ旅行者数(全国の国内旅行の総数)は、新型コロナウイルス感染症がまん延する前の19年以前の水準に完全には戻っていない。若い世代に限ると「お金や将来の不安から旅行を控える」との回答もみられるという。
シニアはどうか。彼らの中には旺盛な旅行意欲を持っている人々もいる。ただし、富裕層を除けば、若者と同じように節約志向がみられる。
例えば、JR東日本の大人の休日倶楽部パスの適用期間には温泉地は大にぎわいだと旅館の関係者から聞いたことがある。年間に数回実施される大人の休日倶楽部パスは、東日本フリーエリア用だと、新幹線を含め普通車の指定席を6回まで予約することができ格安。価格は「えきねっと」で買うと1万8800円だからだ。
好調なインバウンド需要に加えて、人件費や光熱費、食材費などの値上がりは旅行費用にも影響している。識者の中からは、若者が内向き志向になり、旅を控えるようになったと指摘する声もある。特に海外旅行はそうだという。懐が寂しい中でも若い人にもっと旅をしてもらいたい。「旅は君たちを成長させる」と観光講座を担当している短大で繰り返している。その際、今回初体験で知った安売りセールなどを勧めたい。
(日本旅行作家協会常任理事、元旅行読売出版社社長)




